全てのシーンが見てて楽しく、驚きがあり、特にアバン、青鷺と主人公が対峙するシーンや、夏子の登場、パンを食べるところなど、時が止まったかと思うくらい強烈な印象に打たれる。日常の、いちいちの動作にそのひとの心がこもっており、風で動く植物や静物のいちいちが美しかった。まずはアニメーションとして至高。物語はミステリ仕立てかと思いきや後半、加速度的にファンタジーになる。これは乗れる乗れないで分かれるはず。また序盤にものすごい積み方で主人公の心の機微が描かれる。そんな文芸作品の手つき…からの後半、ラノベのキャラのごとく性急な成長に戸惑った。しかし禁秘を犯して時間の鼓動を早めた報いだとも思えて、どちらかというとヒミや青鷺の変化に面白みが見出せた。
個人的には、人類はもうダメだとこれ以上なく言われた感がありつつ、同時にそれでよいズタボロの鳥頭のままに生きよと、全く嫌味なく励まされたような不思議な感動があった。ほんの一握りの知識と、悪阻の時に死を恐れる本能くらいあれば我々はどんな変化にも立ち向かい、未来を想像する余地を持てる。血縁を否定も肯定もせず、しかし縁は自分で選ぶもの、と通しているのも好感だ。どう生きたいか、それは自由だ。
