Runa

君たちはどう生きるかのRunaのネタバレレビュー・内容・結末

君たちはどう生きるか(2023年製作の映画)
4.1

このレビューはネタバレを含みます

まるで遺言のような作品だと思った。
それ即ち、新しい世界への祈り。
過去を振り返らない監督が、
過去と今を曝け出した作品。

むしゃくしゃしてた折に「そういえば」とみた。
あと何回、宮崎駿監督の最新作を映画館で観れるかわからない。
ジブリを買い与えられ何度も観て育った自分としては、本作も絶対に観ると決めていた。

まず気になったのが、眞人の感情の欠如。かろうじて両親の睦みを目撃した時や喧嘩の時くらいで、いつも多くを語らず何を考えているのか掴みづらい。時折何か諦めた表情を見せる。
もしかしたら、監督から見た今の若者像なのかもしれない。
もしくは、自身の幼い頃を投影したのかと思ったけれど、感情の塊みたいな方と聞くのでそれは無いか、と思い至った。

また作中幾度となく出てくる鳥は、
大衆のメタファーだろうか。
焦点が合わず同じような顔で追いかけてくるインコは盲目的なファンにも見えるし、コンテンツを消費しまくる現代人にも見える。
漏れなく糞で周りを汚しまくるので、痛烈すぎて笑ってしまった。

そして集大成というべきの如く、過去の13作品に似た描写や背景が沢山出てくる。
石の墓場はもののけ姫の山犬の家、
ツルに捕まり追いかけるのはラピュタ、
草むらのトンネルを駆けるはとなりのトトロ…
本当によく見たことのある描写が盛り沢山で、サービスシーンが多かった。
前だけ見て走り抜けてきた監督が、
過去の思い出を振り返りながら、考えたのだろうかと思うと感慨深かった。

そして何と言っても大叔父は宮崎駿その者である。疑う者はいないだろう。それくらいわかりやすかった。
「風立ちぬ」の時も、カプローニが創作者に対して雄々しいセリフを投げかけていたが、
今回はそれよりも老いを感じさせる「祈り」のようなセリフだった。
祈りとは、思いを託すのは勿論、
自身の如何で変えられない事柄に対してするものだと思う。
血縁の後継者を望むがそれも組織から拒まれ、世界からも拒まれ、本人からも拒まれる。
作り上げた13の作品と共に、大叔父が一世一代で築いた建物も崩れ去る。
何と皮肉な展開だろうか。
鈴木敏夫の苦笑が思い浮かぶ。

そして崩れ去る創作世界の中ヒミが涙し、「大叔父様、ありがとう…」と言うのである。
果たしてこれは、母からの労わりの言葉なのか、
監督本人が言われたかった言葉なのか…。

まるで手紙のような物語で苦しくなる。
また私事だが、心無い言葉で傷つき、自分自身も憎悪に苛まれていた日に見たからこそ、「悪意」と共に生きることを選んだ主人公は眩しく見えた。
傷つけ、傷つけられながら、
人は創作をし創作にヒントを得て、
現実世界を生きてゆくのだ。

エンドロールも良かった。
手書き風のフォントは温かみがあり、
地球儀の盛り上がりも素晴らしかった。
そして何より宮崎駿の名前が慎ましく、
そして名だたるアニメ制作会社がずらっとオールスターで脇を固める様は圧巻だったし、
次の世代も良い創作を作っていくから任せてほしいと、そんな気概を感じた。

君たちはどう生きるか。
ずしりと響くタイトルを再度横目に、
心の中で「またな、トモダチ」と呟きながら、
感謝と共に映画館を後にしたのだった。
Runa

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