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君たちはどう生きるかのYRFWのレビュー・感想・評価

君たちはどう生きるか(2023年製作の映画)
4.9
テーマは「継承・遺物」。
この映画を観て真っ先に頭に浮かんだのは内村鑑三の「後世への最大遺物」だった。

宮崎駿のおそらく最後の長編映画。
今までの商業的な要素は全くなく、広告も打っていない状態での上映。
監督の内なる世界観を存分に感じられた。その反面わかりやすい感動などは少なく抽象的な内容であり、観ている人の感情が共通の1つの方向には向いていかない。
抽象的であるがゆえに、それぞれがメタとして強い働きをしているし、一つずつ何のメタであるかを考えていく楽しさもある。

この映画のテーマを「継承・遺物」と考えたときに感動する理由は2つあった。

1つ目は、宮崎駿から授けられている多くの「遺物」がこの世には既に存在していること。
ジブリ作品は、世界に誇れるアニメーションであり、日本人の価値観を作ってきた側面は大いにある。ジブリの映画は共通言語となっているし、未だにテレビで放映されることは話題になる。インパクトが大きい作品を数多く生み出し、そのインパクトのなかに生きている。
そんな偉大な宮崎駿に対して、影響を与えた人がいたことをこの映画は物語っていたし、
自身が自己の死を意識し継承への願いや希望を託している。
主人公の男の子は前者のメタ、大叔父は後者のメタだ。

2つ目は、芸術家特有の「継承」だと思う点。
羨ましいと思った。この継承方法は作り手である芸術家の特権だと思う。自分が影響を受けた世界観を示しつつ、後世への最大遺物として作品・遺作を作る。作品が与えるインパクトが消えるまで芸術家は生き続けられる。
さらにここに重みが出るのは、1つ目の理由が大きく関係していると思った。皆ジブリの作品をある程度の原風景として観てきた。
既に遺物が蓄積されている状態で、いざ最後の作品を目の前にすると寂しさや感謝など様々な感情が呼び起こされる。今まで存在していた無意識の継承を、終わりを見せることにより、意識的な継承へと自覚させる作品でもあった。

そして、映画の大団円。何か群像劇を観ているかのようなクライマックスだった。
さらにエンドロールでの米津玄師の曲。聴くたびにこの世界に没入できる。4年前に監督が作成を依頼していたそうだ。ここにも継承の要素を感じる。

わかりにくい抽象芸術の楽しみ方がこの映画には詰まっていた。
観る人に何を感じさせるかが優先せず、作者の願いをダイレクトに感じさせる。理解できる、理解できないなどは一旦置いておきエネルギーを感じることができる。それで十分だ。

自分がなぜ抽象芸術が好きかに対するある程度の答えを出してくれた映画でもあった。
これを受け取れたことが継承に値すると思うとまた感動する。
そんな自分が何を遺物として残せるのか考えさせる内容でもある。
ここまで思考が巡ったときようやくタイトルの意味が身に染みた。
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