YRFW

月のYRFWのレビュー・感想・評価

(2023年製作の映画)
5.0
鑑賞前は、障がい者への内なる差別意識に対する罪悪感が刺激され絶望を抱くと想像していた。
もちろんこれもあったが、鑑賞後は別種の絶望を感じていた。

作中に「クリエイター」が多く登場した。主人公は作家、主人公の夫はアニメーション映画を作り、施設の同僚も作家、加害者自身も絵を描くことを生きがいにしていた節がある。
いわば目の前の現実世界から一歩離れて、夢想することで世界や自分を変えようとしている人だ。
そして全員が加害者と対峙する。加害者自身も含め。

ただ身近な存在だった加害者の思想や行動を変えることができず、事件は起きてしまう。ここに深すぎる無力感があった。

主人公の夫が、加害者と対峙するシーンが最も心に響いた。
思い切り相手を殴るが「音」がしない。
該当シーンは全くの無音であった。
殴ったことが全くダメージとしては蓄積されておらず、感情が貫通しているような描写だった。

「現実」vs 「空想」の対峙で、クリエイター側の「空想」は完敗する。
為すすべくなく「現実」では悲惨なことが起き受け入れるしかない。

「考える」ことが世界の何に役に立つのか。
行動を起こさず傍観者でいる人ができる行動とは何か。

世界が変えられないからと言って行動をしないことは良くないが、では何をしたら外の世界に対して効果があって、自分の生きた証となるのか。

好きな映画や本と向き合った先にどんな世界が自分の前には広がっていくのかわからなくなってしまった。
結局は空想の世界での夢想でしかないのかと絶望してしまった。
こんな感情を抱かせてくれた映画は初めてだった。
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