シミステツ

君たちはどう生きるかのシミステツのネタバレレビュー・内容・結末

君たちはどう生きるか(2023年製作の映画)
4.4

このレビューはネタバレを含みます

宮崎駿監督作品の集大成、引き際を感じさせるような作品。意思というか強さみたいなものを感じた。過去ジブリ作品にも似たシーンやキャラクターも多く、この作品自体がジブリやアニメーション界、宮崎駿監督自身を表現しているというのはネタバレ界でも言われているところなので、そのあたりは置いておいて、受け手としてシンプルに感じられた部分、普遍的に抽出できる部分を記します。

戦争の最中、母親を火事で亡くす眞人は悲しみに暮れる中、東京から疎開し新しくナツコという継母を迎えることとなる。新しい母親と、その身体に宿る新しい命。青鷺は冒頭母が亡くなった現実、継母の存在を受け入れられずにいる眞人の弱い心の象徴にも近く、眞人と青鷺は互いに投影されたような関係性、対立もしながら戦友のような存在になっていった様も印象的だった。メタ的な存在とも言える。眞人の頭の傷は継母への苛立ちから自罰的な印として表れた眞人の悪意。

頭を傷つけうなされている描写あたりで現実か夢かの彷徨い、「白昼夢」が示唆されている。現実と理想、表と裏といったような感じ。

七人の老婆たちは白雪姫の七人の小人よろしく貧しい労働者の象徴。煙草をほしがる様子や『グリム童話』の本が出てくるところから推察できる。貧しさすなわち悪として描かれているわけではないのがポイント。キリコさんは大海原で魚を釣り上げ殺生をすることで生きる、生き抜く上での厳しさや逞しさを兼ね揃えた人間で、一方のインコは自ら手を下すことはない、けれども責任を負わずにある種ネコババする形で生きるものたちを描写している。後に眞人を捕らえて包丁を磨いていたシーンがあるので、「人間」の殺生はすると見られる。つまりは人間社会に対する批判者としての存在とも言える。

純粋無垢なわらわらが天へと向かい人間へと生まれるときに襲うペリカンたちの存在は、無知であることの弱さを露呈させる存在、ないしはそうした者たちへの搾取。ただし老いたペリカンの発言から、搾取する側も自己批判的だというところも垣間見える。

人間は誰しも悪意を孕みながら生きている。それでも知を持ち寄り正しい心でその世界の秩序を保つことはできる。ただしそれはあくまで理想論でもあり、現実の中でそうした穢れを持ち無知であることを恥じ、悪意ある自らを自覚し研鑽しながら生きることの大事さが説かれているように思えた。
(ネタバレ考察で13個の石を3日おきにというのが、宮崎駿監督の作品が13作でそれに投影したというのがあり興味深かったです)

あくまで最初は父親が好きな人としてのナツコを探しに行ったものの、「父が好きな人です」から「僕のお母さん」に変わるところもポイント。お前のお母さんになれるなんて素敵じゃないかと炎をものともしない母親としての強さが表現されていてよかった。

階段を上り下りするシーンをはじめ、縦画面のティルト、ダイナミズムはジブリらしい映像表現として印象的だった。