サン

君たちはどう生きるかのサンのネタバレレビュー・内容・結末

君たちはどう生きるか(2023年製作の映画)
4.2

このレビューはネタバレを含みます

君たちはどう生きるかという題。
それがこの映画をただの鑑賞として終わらせてくれない。

この映画は初めから大好きだった。
病院の火事の中走るマヒト、このシーンから圧倒された。
その他も印象的なシーンはたくさんある。
マヒトが学校の帰りに自分で頭に石を打ちつける描写。
キリコが操船する風を掴むヨット。
螺旋状に宙に上がっていくワラワラ。
「子供って人間の?」という問いに「当たり前じゃない」と答えるキリコ。
花火を打ち上げてペリカンを追い払うヒミ様。
そのペリカンが自分も好きでやっているわけではないと口にしながら死んでいってしまうシーン。
ヒミ様の焼いたパンに口をマーガリンとジャムだらけにしながらかぶりつくマヒト。
マヒトに大嫌いというナツコ。

マヒトに「おいで」というヒミ様が
千尋に「おいで」というハクと重なった。
この映画でジブリ作品は言葉遣いも好きなのだと気づいた。

理解しづらい不思議な世界で芯を持って行動する姿。その直感のようなもの。それが僕の心を打っているのかもしれない。

人生が選択の連続であるというのは有名な言葉だ。終盤、マヒトはあちらの世界とこちらの世界の二択を迫られ、こちらの世界を選択する。マヒトはそう選択をした。

頭に刻まれた悪意の印。子供が自分を傷つけるシーンで悪意を描くということが、いやにリアルで衝撃だった。

ここで村上春樹のエルサレム賞受賞スピーチの言葉を引用したい
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私が小説を書く理由は、煎じ詰めればただ一つです。個人の魂の尊厳を浮かび上がらせ、そこに光を当てるためです。我々の魂がシステムに絡め取られ、貶められることのないように、常にそこに光を当てて、警鐘を鳴らす。それこそが物語の役目です。
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この映画は小説ではないけれど、まさに魂のかけがえのなさに光が当たっているんじゃないだろうか。

この映画と村上春樹は似ている。理解しがたい次元で登場人物の中で奇妙な理解がある。(この映画でマヒトは石は木と違って悪意のあるものだと知っていたし、海辺のカフカでナカタさんは入口の石の存在を知っていた)それなのに、物語をたどると妙に納得させられたように感じるものがある。作者には何か筋が通ったものが見えているのだろうと思わせられる。説得性。

ジブリの新作映画が出るたびに話題になる。
ジブリの世界観は世代を超えて共通する何かを捉えている。言葉にできないものが多すぎるから世界観という言葉を使ってしまうのかも。物語、風景、キャラクター、使われている音楽、それらが特別にマッチしているように感じるのだけれど、その全ての土台にある考え方のようなもの。それが好きだ。
自然に対する畏敬の念。自然環境だけではなく、生死の循環のようなもの。そういうものが感じられるところも好きだ。

エンドロールで流れてきた声優のキャストが馴染みのある名前が多く驚いた。
米津玄師の主題歌もすごく素敵だった。

見終わってすぐに思った。もう一度見たい。
サン

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