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君たちはどう生きるかのガクのネタバレレビュー・内容・結末

君たちはどう生きるか(2023年製作の映画)
3.7

このレビューはネタバレを含みます

今までの宮崎駿作品のかけらを感じたことに加えて、波を超えて出航するシーンは『キャストアウェイ』で同様に波を超えて無人島から沖へ脱出するシーンを思わせたが、これは海ではこういうものなのか、演出上のオマージュなのかがよく分からない。笑
ウキはウィルソンに見えなくも無かった。

映画を観ただけではあまりにもよく分からなかったので、吉見源三郎著の『君たちはどう生きるか』を読んでみた。この著作の根幹の思想に「人間分子の関係 網目の法則」というものがある。経済学用語では生産関係というらしいが、ざっくり言うと人は常に他人を支え、または支えられて生きているという事で、そう行った関係性の中でしか生きられない事を指している。

真人少年が母から贈られたこの本を見つけ、読み終えた後に涙を流していた理由が少し想像できた。中学生くらいの大人でも子供でもない年齢で母親を失う悲しさがどんなに辛い事かは知れないが、この本と、真人という名前に託された母の想いを感じ取っての涙じゃないかと思った。物語を凄く単純化すると、母の死に対する悲しみを和らげると同時に新しい母を受け入れる旅であったと思う。その旅で真人が学んだのは生命という存在自体が持つ偶然性(出会ったり、死んだり、生まれたり)と、言葉、建造物、自然、口承を仲介して受け継がれてきた内容の尊さだなあと思った。

岡本太郎が留学から帰国した際、日本人を鬱々としていて湿った心根であるといったような意味で評していたが、吉見源三郎著の『君たちはどう生きるか』の倫理観が遂行されているならば全く岡本太郎の評した日本人に当てはまらないはず。しか未だに快活な心根をしている人は少数派のままだと思う。こういった事を再警鐘するテーマの作品あれば、吉見源三郎著の『君たちはどう生きるか』を分かりやすく映画に出来ただろうに、この映画にはあまり含まれていない。

ネタバレ・解説など読んでる限り、自分の真似をされては困るといったメッセージも含んでるのではという意見があった。また、本人にも何故キャラクター達がそのような立ち回りをしたのか分からない、という趣旨の発言もあったらしい。そんなモヤモヤしたものを一本の映画にしてしまうのはやっぱりすごい。
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