「じゃあな、ともだち」
宮崎駿監督
太平洋戦争中、母親の死をきっかけに田舎に疎開した眞人という少年が、新居の近くで廃墟となった塔を発見し、人間の言葉を話す謎の青サギと出会い、彼と共に幻想的な「下の世界」へと足を踏み入れる。
いやー、これは「快作」。こんな映画を作っちまうなんて、宮崎駿は本当にものすごい老人だと思った。
まず、予想以上に「活劇として面白」かった。ちゃんと面白かった。
「意味不明でつまらない」という感想がちらほらあり、「説教三昧でつまらない押井守作品みたいなのか…?」と身構えていたのだが、いやはや、ちゃんと冒険活劇してるじゃん!と驚いた。
さすがに「ラピュタ」「もののけ」「千と千尋」といった「S級の冒険活劇」には及ばないが、(思想抜きでみても)普通に楽しめる作品なんじゃないかと思った。
そして、それ以上に驚いたのが、「大伯父」がそのまんまの「高畑勲」であったこと。宮崎の上司であり盟友であり、アニメーターとしての目標であった人。
大伯父は「下の世界」を生み出した創造主、つまり「アニメーター・アニメ監督」のことであり、眞人(=宮崎)に「わしの後を継いではくれぬか」「血がないと継げない」と言う。つまり宮崎の「高畑の後継者(世界一のアニメーター・アニメ監督)は俺」という宣言である。
そして高畑大伯父によって作られた世界は崩壊し、眞人・宮崎は自分の世界に還る(高畑との決別と自立)という話なのである。
なんと「実に個人的な、高畑への愛憎」だけでまるまる一本の映画を作ってしまった、というところに心底驚いた。
「君たちはどう生きるか」という作品タイトルから連想させる、宮崎の「若い人たちへのメッセージ」というものも見せるが、それはやはり「一応はある」といったもので、この作品本来の主題は「俺はこう生きた(=高畑勲に一生を捧げた)」である。あえて言うなら、これは宮崎の「俺はこう生きてしまった。君たちはどう生きる」なのだろう。
そういうわけで、実に奇妙な、(大傑作と呼ぶよりは)まごうことなき「快作」だと思った。
本作には「宮崎ファンには刺さるが、ジブリファンには不評だろう」という感想があり、「なるほど」と思った。いい得ている。
結局ジブリで一番面白いのは、映画ではなく「宮崎の人間性」と言ったら怒られるだろうか(苦笑)
あと前情報は極力見てなかったので、本作のwikiを今回初めて見たのだが、え?こんな人が声優を!?という驚きがあって楽しかった。あいみょんが声やってるのはびっくり。
あと、英語版の大伯父の吹き替えはマーク・ハミルだそうで、「SWのルーク!!」とうれしくなった。
そして、この「超個人的な快作」を生み出した宮崎は、本当にあと300年は生きて作品を作ってほしいと思う。「風立ちぬ」に続いて自伝色の強い作品を作ったのは、自身の「死に目」を意識してのことに違いないが、本当に長生きして死ぬ瞬間まで作品を作ってほしい