このレビューはネタバレを含みます
死体の人とは主人公のことで、死ぬ場面から死体役までを演じてばかりの俳優。役作りには拘りが強く、それ故使う側から面倒くさがられてこういった役どころばかりが回ってくる日々を過ごす男。とはいえ、その存在自体は古今東西の作劇上重要なものであり、普段なかなか注目されることのない立役者の陰になる演者について挑戦的にフィーチャーしてみせるあたりは『太秦ライムライト』に通じるものがある。
本編は奥野瑛太演じる俳優の先行き何とも知れない公私を描き、演技には力いっぱいの仕事模様、デリヘル嬢や両親との可笑しな距離感をコミカルでいて切なさを含めて描き、変な湿り気を感じない作りになっている。草苅勲監督の珍しい着眼点ながら分かり易く面白がってもらおうという演出心が伝わる。
それだけに、主人公の内にある俳優道や、男女の価値観・人生観についてもう少しでも肉付けがされていれば(94分なので説明的な場面をカットしたのかもしれない)、より厚みある傑作と感じられた。しかし"死に役俳優"の日々を描きながら現代日本の映像撮影現場事情を垣間見せるあたりは興味深いし、TVドラマや映画に親しむ方々には特にチェックしてもらいたい一作である。