宇尾地米人

マチネー/土曜の午後はキッスで始まるの宇尾地米人のレビュー・感想・評価

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 クラシック・ホラーや怪獣・モンスター映画を愛してやまないジョー・ダンテが『グレムリン2』を作ったとき、彼の監督精神と映画お遊びが最高潮に達したと思いました。もうこれ以上のものは出来ないんじゃないかと。ところがこの『マチネー』を観たとき、その面白さに参りました。やはりこの監督は映画の面白さ、奥深さを知り尽くしているかのように、情趣に富んだ映像世界を作り放つ。そしてこの題名が面白いですね。"MATINEE"とはフランス語で朝、午前のことで、エンタメ業界では昼興行のことをいいますね。日本では「土曜の午後はキッスで始まる」と副題が付けられました。少年少女が出てきますので、なにか可愛らしい印象をもたせたかったのでしょうか。そしてこの映画では、架空の名監督が街にやって来ますし、映画館が舞台になるんです。映画館が出てくる映画って面白いものが多いですよね。『タクシードライバー』から『ニュー・シネマ・パラダイス』、『デモンズ』やら『ワン・セカンド 永遠の24フレーム』まで、いろいろありましたが、こういった作品は映画が好きで好きでしょうがないような人でないと作れませんね。だから映画人生が溢れてきて面白いんですよね。本作もそういった映画への愛好、熱心が迸る傑作のひとつです。

 映画の中で、「ホラー映画の帝王」と称される大監督ローレンス・ウールジーなる人が登場します。ジョン・グッドマンが演じています。恐怖映画やモンスター映画で人々を震え上がらせたり、楽しませることの名人で、お客さんの大きなリアクションが生きがいみたいな人なんですね。手掛けるものがものだけに協会やPTAから非難されることも多いのですが、好事家や子どもたちからは大人気というあたり。この監督の最新作、『MANT!』は原子蟻人間が出てくるSFホラーでお客さんを大いに楽しませるギミックを引っ提げて街の映画館にやってくる。大人たちは呆れて軽蔑し、子どもたちは楽しみで楽しみで仕方ないというこの様相。いかにもジャンル映画ファンの目線が光っていてもう面白い。実際そういうもんですよね。かつてアメリカでは"ギミックの帝王"といわれたウィリアム・キャッスルという映画作家がおりました。1940年代から50年代においてホラー映画を盛り上げるべく奇をてらった宣伝をしたり、映画の上映に仕掛けを施したり、いまでいう4DX上映を先駆けたような人がいたんですね。ジョン・グッドマン演じるローレンス・ウールジー監督は、このウィリアム・キャッスルをモデルにしておりますね。この監督が映画を盛り上げるために体をはり、「あの男こそ本物のショーマンだ」と拍手されるところの面白さ。やはりこの映画は確かな映画ファンによるものだなぁと思いましたね。

 ところがジョー・ダンテ監督はタダ者じゃあない。映画の怖さ、ホラーの恐怖、SFのスリルの何たるが骨身に沁みています。映画の仕掛けが唸りをあげ、興奮と盛況が巻き起こるも、映画館が揺れ動き、なにかただならぬ気配が迫ってくる。「世界は既に変わってしまった」この映画上映はどうなっていくか。これ以上は申せません。もう最大級の絶叫上映。これはご覧ください。これを観たなら、ああこれこそ映画のなかの映画だなぁと思われますよ。仕掛けいっぱい、スリル盛沢山、ユーモア弾み乗る傑作映画です。
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