イルーナ

世界残酷物語のイルーナのネタバレレビュー・内容・結末

世界残酷物語(1962年製作の映画)
5.0

このレビューはネタバレを含みます

高校の時、ヤラセドキュメンタリーという視点でなく、モンド映画の起源という視点で懸賞論文を書き、賞を取ったことがあるので思い出深い作品です。
キワモノ系ドキュメンタリーの元祖だけに色眼鏡で見られがちですが、当時観た時は「こんな作品も作れたんだ!」という感動がありました。

文明と未開の対比。食用にされる犬がいる一方で、丁重に埋葬される犬がいる。しかし、他の動物が見たら、人間のこの行為はさぞかし奇妙に見えるだろう……こんな具合に、世界の理不尽をシニカルな視点で見つめる。
文明側に属する私たちからしたら、いわゆる「未開」の地域の文化は野蛮に見えることがあるけれど、向こうからしたら、こちらの文化が野蛮に見えるのかも知れない……
こうしたバランス感覚があるからこそ、本作は独自の地位を築き、今でもそれを守り続けられているのかもしれません。
しかし今から60年近く前といったら、世界の情報を手に入れる手段なんか、まともになかった訳だから、当時の人の驚きは凄かったんだろうな。うちの父は、牛にビールを飲ませる場面が印象的だったと語っていました。

とりわけ印象的なのは、やはりビキニの核実験後の世界でしょう。あそこは、悲惨さの中の美と、ヤラセによる笑いどころが混在していて、感情の持っていく場所がわからなくなります。
海鳥の卵のくだりは、映像だけでなく、ナレーションも音楽も心を震わされます……もうナレーションを聞いているだけで泣きそう。
その一方で、木登りするトビハゼはあまりにも露骨なヤラセで笑ってしまうし、恐らく最も有名なシーンの一つである、放射能の影響で方向感覚を失い、野垂れ死ぬ海亀も、ひたすら悲壮な音楽で胸を打ちながらも、ひっくり返った状態で息絶えるカットで、「?????」に。
このビキニのくだりは、色々な意味で本作を象徴してると言っても過言ではないでしょう。

あとこの作品は音楽が本当に素晴らしい。「モア」筆頭に、心に響く名曲揃い。サントラはいつも常備しています。
イルーナ

イルーナ