Kuuta

ザ・キラーのKuutaのレビュー・感想・評価

ザ・キラー(2023年製作の映画)
4.1
ヒッチコック大好きおじさんによる全力おとぼけノワール。画面が暗めな上、アッティカス・ロスとトレント・レズナーの音響が素晴らしい作品なので、映画館で見るのをオススメします。

・「アドリブはアカン絶対ケガする」と自分に言い聞かせながら、アドリブに右往左往する。エイリアン3の呪い?完璧主義者がミスした後も自分の仕事を頑張る話。クールに見えて内心ドッキドキの無口な男を見守る、私の好きなジャンルの映画だった。

・第1章が抜きん出て素晴らしい。裏窓に始まり(鳥も飛んでる)、映画の外側から、映画を見つめる冒頭。ピント送り、音、ズーム。制御された画面のどこに事件の火種が眠っているか分からない。久々にワクワクから映像に吸い込まれるような感覚があった。

「パリの朝は静かに明ける…」「マクドナルドは貴重なタンパク源だ…」。カッコいいのか悪いのか分からないモノローグで溜めに溜め、観客全員の頭によぎるダメ展開を踏み抜いていくフリオチが見事。

・2章以降はストレートな復讐譚に落ち着き、起伏にはやや欠けるものの、一つ一つのクオリティは高い。特に中盤の殺し合い、基本的にアクションイマイチなフィンチャー映画では過去最高の出来では?というくらいアイデアが多い。ハードな戦いの後の、犬から逃げるくだりも良かった。

・ティルダ・スウィントンのウイスキー、死へのカウントダウンを自分で進めるところ、殺し屋が遮ってグラスを取る。「後ろを取られる恐怖」を繰り返し演出し、穏やかなラストシーンですらそれを再現する。秘書の最期は一応彼女の希望に応えたもの?

・世界各地を回る&ドラマっぽい章仕立て。一つの章が終わると、小道具を律儀に全部捨てる。ネトフリ映画的?ファスト感。ノワールな殺し屋もAmazonやGoogleを使う演出はフィンチャーらしい意地悪さだ。
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