うかりシネマ

ザ・キラーのうかりシネマのネタバレレビュー・内容・結末

ザ・キラー(2023年製作の映画)
-

このレビューはネタバレを含みます

依頼に失敗した殺し屋を追うスリラー。
目的はあるが山場はなく、淡々と進行していく。生活感があり最新のガジェットを使うなど、スパイ映画やアクションの殺し屋映画とは異なる演出は面白い。

殺しに対して美学を持っているが、甘さを捨てきれずにそれに反して優しさを見せる……というのは分かるけど、それも破ったり守ったりするのでどっちつかず。
殺しのルールについても、初手から決められたルーティーンを失敗しているのでどっちを「正」として観ていいのか分からない。作中で一度だけ裏切るか、口では言っているのに毎回破るかのどちらかにすべきだった。

引用される曲は小節ごとのタイミングで切り、没入させることなくノイジィに演出されている。だからといって環境音が優れているとか、主人公の聴覚に同調できるとかもなく、ぶつ切りにした意味は分からない。

失敗から始まる復讐譚でありながら人間味は薄く、コンクリート打ちっぱなしの壁に冷たく佇み、思索に耽るバランスは格好いいが、作品自体の魅力に乏しい。
Amazonを利用して侵入経路を組み立てるとか、即席のトラップを仕掛けるとかは面白いが、ドライな作風とフェイクドキュメンタリー的な「殺し屋あるある」の食い合わせは悪い。
トラップに関しては(それが日常とはいえ)不発で、不発をわざわざ映画にされても……という感じ。劇映画なら(本作の冒頭のように)「例外のたった一度」でドラマを作るべき。

とはいえ出てくる敵は魅力的だし、前述のとおり主人公も格好いいし、ガジェットの使い方も(マッチしてないだけで)悪くない。面白くはあるが、満足感を得られるものではなかった。