ボブおじさん

終わらない週末のボブおじさんのレビュー・感想・評価

終わらない週末(2023年製作の映画)
4.0
人は元来、主観に基づくクローズアップの世界のみで生きていたことを思い起こさせる。

世の中の現象を客観的・俯瞰的に見ることができるのは、他者からの知見や情報があるからだ。一昔前なら新聞・ラジオ・テレビ。今ではスマホやPCからのネット情報で世の中を知り、それに基づき判断し行動する。

ある日、突然それらのシステムが全て遮断されてしまったら。

アマンダ(ジュリア・ロバーツ)と夫のクレイ(イーサン・ホーク)は、息子と娘を連れ週末をゆったりと過ごそうと予約した豪華な別荘にやってくる。しかし、到着して早々電波の関係か、スマホやパソコンだけでなくテレビまでもが使えないという事態が発生する。そんなアマンダたちのもとに突然、この別荘のオーナーだというG・Hと名乗る正装した黒人の男(マハーシャラ・アリ)が、娘を連れてやってきて……。

前半は、別荘を舞台にした、2つの家族の疑心暗鬼の探り合いが、緊張感を高める。だが、やがて事態は想像以上に深刻な状況であることを匂わせる。

システムが遮断された家族は、あたかも触角を抜かれた昆虫の様に、行き場を失いあたふたと回り始める。

この不安定で不安な心理を平衡感覚を崩す様なバランスの欠けた構図のカメラアングルと不快な音楽で表現する演出は見事。更に、敷地内に現れる鹿の親子やフラミンゴ、人工衛星から俯瞰して見た地球の映像、そして原因不明のノイズが不安を煽る。

システムの遮断により、見ているこちらも、家族が目にした半径50メートルの断片的な情報しか入らない為、最後まで全体像が掴めずイライラとハラハラが入り乱れる。ある種のパニックスリラーなのだが、パニックを起こす対象の姿は最後まで現れない。

我々が、日々漠然と信じているシステムが、ある日突然崩壊したら。人と人との関係性が希薄になった現代社会の、そして現代を生きる人間の脆弱さを感じざるを得ない。人と人とが信じ合い・傷つけ合い・助け合う姿は、もはや再放送のドラマにしかないとすれば、それは余りにも悲しい😢

日本語タイトルの「終わらない週末」とは「戻らない日常」であったことを思い知らされる。