ヨーク

モンキーマンのヨークのレビュー・感想・評価

モンキーマン(2024年製作の映画)
3.7
先日観た『ポライト・ソサエティ』と同じくインド風アクション映画な『モンキーマン』ですが『ポライト・ソサエティ』が実のところはほとんどアクション要素はなくてコメディ中心の作品だったのに対し、この『モンキーマン』はアクションがメインで暴力描写マシマシな復讐劇である。人もいっぱい死にまくる。別に『ポライト・ソサエティ』がダメだったということではないのだがイマイチ拍子抜けだったアクション成分をたっぷりと摂取することができたので満足でしたね。ちなみにインド“風”と書いたのは本作の資本はアメリカで製作国もアメリカとなっているためである。かのジョーダン・ピールがプロデューサーを務めているらしく純インド映画というわけではないのである。
本作の監督はこれがデビュー作となるデヴ・パテルで、ダニー・ボイルが監督した『スラムドッグ$ミリオネア』で主役を演じた彼だ。デヴ・パテルは確か両親がインド系ではあるものの生まれも育ちもイギリスだったと思うのだが『スラムドッグ$ミリオネア』のイメージが強いせいか主にインドが舞台の映画に出ていた気がする。本作も都市名は出てこなかったがインドが舞台であると思われる。また本作は過激なアクションが売りの映画なのだがメインスタッフは『ジョン・ウィック』に関わっていたスタッフらしくて、特に後半は確かにその遺伝子を感じるようなアクションシーンが連発でその点も見どころの一つであったと思う。
さて、上で復讐劇と書いたように本作は物語自体は非常にシンプルなあらすじで、何か森にある田舎の村で母と慎ましく暮らしていた主人公がある日村の開発か何か(具体的に何だったか忘れた)で地上げ的に村を追い出されそうになるのだがそれに抵抗したところ村ごと焼き払われて母親も殺されてしまうという悲劇に見舞われる。そして一人生き残った主人公は村を出て村を焼き払い皆殺しにしたクソ野郎がいる街の地下闘技場で猿のマスクを被ってモンキーマンというリングネームで八百長を請け負いながら資金を貯め、復讐の機会を窺っていた…というお話です。ちなみに主人公がモンキーマンを名乗るのは幼い頃母親に悪者を退治するハヌマーンの神話を読み聞かせられていたからである。
そんな風にシンプルな物語で尚且つ復讐もの、しかも『ジョン・ウィック』のスタッフが関わっているとなるとアクション全振りの痛快バカ映画かと思っていたんだけど、これが『ジョン・ウィック』と比べたら中々にドシリアスな映画でびっくりしましたね。まるで『ジョン・ウィック』がバカ映画であるかのように書いてしまったが、まぁバカ映画なので仕方ないだろう。上記したように本作も理由は忘れたが村を一つ丸ごと焼き払って村人も主人公を除いて皆殺しという、いや流石にそれはリアリティが…となる極端な設定ではあるのだが軽度のネタバレとしてはその行為には警察組織が関わっていて権力側の腐敗構造というのが描かれるんですよね。それに加え『スラムドッグ$ミリオネア』もそうであったように資本主義化するインドの拝金主義や宗教と結びついた保守勢力の政治の腐敗なんかも要素としては盛り込まれていて、憎いクソヤローに敵討ちするぜー! みたいなシンプルで竹を割ったような雰囲気にはなっていなくて現代インドの問題点を真面目に描いた作りになっているんですよ。
正直そこは予想外だったな。大きく分けて気合の入ったアクションシーンは前半と後半の二つだけで、正直ちょっと中盤かったるかったけど真面目なストーリーだったから許しちゃう。いや正直そのシリアス部分、特に政治や宗教の腐敗を扱った部分というのは上手く扱えていたとは言い難くてダレて間延びしているだけなのでごっそり削って100分くらいでまとめてくれた方が映画としての完成度は高くなったと思うのだが、しかしかつて『スラムドッグ$ミリオネア』で主演を演じた少年が初監督作品としてそういうテーマをぶっ込んで来たっていうのは意欲的で素直に感心してしまったのでまぁいいのではないでしょうか。自身がインドにルーツを持ちながらも出身地ではないという微妙な立ち位置が余計に生真面目にインドの問題を捉えたいという意識に結びついているのかもしれないが、まぁそこはあんまり背負い過ぎずにほどほどな軽やかさも持って次回作とかに挑んでほしいなというところもありましたね。
ま、その辺は良くも悪くも真面目な映画だなぁという感じでした。復讐が成就されるかどうかというシーンでも主人公には全然達成感とか喜びとかはなくて、かといって今さら復讐なんて虚しいぜと悟ることもできない、っていう生々しさも真面目に描いてるんですよね。ジョン・ウィックはうるせーな死ねよ、くらいで処理したのに! その辺の真面目さと重さっていうのはスカッと悪いやつをやっつける物語を期待した人にはちょっと余計だったかもしれない。エンドロールでかかる曲も内省的な感じの曲だったしね。まぁ一番盛り上がるバトルシーンはゴリゴリのメタルが流れてテンションアゲアゲになるのだが…。
まぁ良くも悪くもお気楽アクションというだけではない映画でしたね。俺的にもハヌマーン神の怒りを食らえ! っていうノリの映画かと思ってたからシリアスパートはちと余計に感じた。繰り返しになるが根が真面目な感じのする作品なのでそこまでマイナスな印象ではないのだが…。でも猿のマスクはもっと使ってほしかったかな。まぁ主人公は神ではなく人なんだっていうところに落ち着くから猿マスクを推しまくることもできなかったのだろうが…。
そんな感じでちょっと色々欲張って詰め込みすぎたかなぁという感はあるものの、これが監督デビュー作というのは大したもんだと思うので監督兼主演のデヴ・パテルには今後も期待ですね。ややかったるいところはあるものの肝心のアクションは良かったので面白かったですよ。
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