ヨーク

野生の島のロズのヨークのレビュー・感想・評価

野生の島のロズ(2024年製作の映画)
3.8
我がSNSのTLでは先に観た人たちが結構褒めていたのでややハードル高めで臨んだところはあるのだが、軽々そのハードルを越えてきた! とまでは言わないものの概ね面白い映画だったなぁ、という『野生の島のロズ』でした。ちょっと期待しすぎたかなぁ感もあるのだが、まぁそれはそれとして十分に面白い映画ではありましたよ。ただ後半の展開がちとノリきれないというか、どう解釈したもんかなコレというのはあった。
そこは後で詳述するとして、とりあえずあらすじとしては何か人類がどうなっているのかよく分からん(俺は最初人類滅んでるのかなと思った)ほどに人間の気配がしない始まり方で、どういう経緯かよく分からんがどっかの島に超高性能なAIを搭載した最新型アシスト・ロボットのロズが漂着するんですね。そのロボは人間のお手伝いをするのが使命で仕事を与えられることが存在意義なのだという。でもその島には人間はおらず野生の動物達しかいないので誰もロズに仕事をくれない。仕事をくれないどころか野生動物たちはロズを凶暴な捕食者だと思って恐れて距離を置く始末なのである。そんな感じで上手く島に馴染めないロズはある日ガンの巣に突っ込んで卵を潰してしまうのだが、一個だけ無事だった卵が孵化してその雛はロズを親だと認識してしまい…というお話ですね。
まぁロボが母性? 父性? ロボには性別はないのでどっちでもいいけど(吹き替えの役者は綾瀬はるかだが)要はロボに徐々に人間性というか生物としての本能や感情が芽生えてくるお話という点ではかなりベタなアレですね。こういうのもう死ぬほど観たよ! って思っちゃう。でも死ぬほど似たような作品がいっぱいあるにも関わらずに同じようなプロットの物語が作られるというのことは需要というか人気というか、要はウケる話なんだろうなと思いますよ。またこのパターンかよ! と言いつつも最初に書いたように俺も本作に関しては、面白かった、という感想を持ったので分かりやすく訴求力が強いテーマなんだろうな。子持ちの父母は当然のこと、俺のように未婚で子供がいない人間でも親のことを思って感動したりはできちゃうからな。そういう意味で広くウケるモチーフなんでしょうな。本作でもその辺の泣けるポイントみたいなのは外さずにバッチリな演出をしていたので、その辺が本作の評価の高さに繋がっているというところはあるんじゃないかと思う。ま、泣けるお話はウケますからね。
でも個人的に気になったのは上記したように後半の展開で、ネタバレしないようにざっくりと説明するとロズのいる島が大寒波に襲われて島の動物たちは越冬できないほどのピンチになるのだが、一つの家(ロズが建てた家)に集結して「ここでは肉食動物も草食動物も関係なく生きのびるために一時休戦といこう」っていう展開になるんですよ。そう、本作はロボと同等かそれ以上にタイトルにもある通りに野生の動物たちが主役なのだが、冒頭からしてしっかりと弱肉強食の世界が描かれるのである。
個人的に動物映画に於いて弱肉強食をどう扱うかというのは俺の中で一つの基準のようなものがあって、それは擬人化されてたりデフォルメが効いたアニメチックなデザインの絵柄ならライオンとガゼル、もしくは虎と鹿とか猫とネズミといった捕食者と被食者が仲良くしていてもあんまり気にならないのである。代表例なら『ジャングル大帝』とか手書きアニメ版の『ライオン・キング』とか『ズートピア』とかだろうか。逆にリアル調な絵柄でそれをやられると無理だなぁー、となってしまう。最近やってたCGアニメ版の『ライオン・キング:ムファサ』なんかはその筆頭で、ほとんど本物の動物に近い絵柄だと、いや何で捕食者と被食者が仲良くしてんだよ…ってなってお話しには入れないのである。だからリアル路線の『ライオン・キング』は観てないし観る気にもなれない。
んで、それを前提として本作の話に戻ると、この『野生の島のロズ』はデフォルメ強めなデザインなので俺的にはシビアな食物連鎖な世界は無いものとして描いてもええよ、っていうビジュアルの作品なんですよ。ライオンとガゼルが肩組んで歌うたってても許せる世界観ですよ。でも上記したように本作は冒頭から弱肉強食な食物連鎖の世界を描くんですよね。これは俺的には敢えて茨の道を進む演出及び脚本に観えて、おぉ! シビアな捕食者と被食者の関係性を描いてくれるのか!? と期待したんだけど、何のことはない、終盤にすげぇあっさりとふんわりと解決したなオイ! という感じで正直ずっこけそうになったんですよね。
いや分かるよ。終盤のあのシーンは人間で言うところの国家だったり民族だったり人種だったり性別だったりで、そういう垣根を越えて一致団結することは素晴らしいよね! っていう寓意であることは分かるよ。ちびっ子向けのアニメと考えれば全然アリな展開だとも思う。でもなー、何かもやっとしたものが残るというか、色んな違いを乗り越えるって言っても食べることって生物にとって究極的な利己性だからさぁ、終盤の展開はちびっ子相手ならともかく大人の鑑賞に耐えうるものだったかというとちょっと勢いとノリで解決したかなって思っちゃいましたね。だったら最初からシビアな食物連鎖の描写は無くても良かったかなぁ、と思う。
大体がアイツら動物同士で会話できるからね。例えば捕食者と被食者の関係である狐と鳥とかが普通に会話できんのよ。作劇上会話できるのは仕方ないけどさぁ、でも会話できるんならじゃあそれ極限状態でもなきゃ食えねぇだろって思うもん。『ふしぎの海のナディア』でナディアがベジタリアンである理由が動物と会話できるからなんだけど、その設定を考えた庵野はやっぱ凄いなと思いますよ。
という感じで重箱の隅を突けばちょっとなぁ…となる描写はある映画でしたね。まぁ上記したようにちびっ子向けと考えれば全然アリな範疇ではあるのだが。しかし本作にはおっさんである俺が観てもグッとくるところもあって、それは自然の描写とSF的風景で、その二つは本当に素晴らしくて作品に奥行きを与えていていい映画だったなぁと思う。特に白樺の木と苔むした根と海面下に沈んだゴールデン・ゲート・ブリッジは素晴らしかった。上で本作の冒頭辺りは人類が絶滅してるのかな? と思いながら観ていたと書いたが、海面下に沈んだゴールデン・ゲート・ブリッジを観るに恐らく地球温暖化によって海面が上昇した世界だと思うんだよね。それを説明的なセリフじゃなくてロングショット一本で観せるのとかは自然の風景と人工物という対比もあってそのSF感が最高でしたね。それだけで観た価値はあったよ。
なのでまぁ結論としては面白い映画でした。細かく気になる部分はあれどいい映画だとは思うよ。ちなみに俺は吹き替え版で観たがロズ役の綾瀬はるかは特に前半の無機的な感じがすげぇハマっていて良かったですね。
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