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パスト ライブス/再会のetcetraのレビュー・感想・評価

パスト ライブス/再会(2023年製作の映画)
3.2
初恋というより、
言葉と、距離と、アイデンティティと
そしてなによりイニョン(縁)について。

少し眠たくなったのは、遅い時間だったからか、A24とセリーヌ・ソンに期待しすぎていたからか。

(以下、ネタバレを含む雑感)

ピンボケするほどに近距離からのショット、木造の一軒家を踏みしめる足音、床の軋み、ドアを開ければ聞こえてくるマンハッタンの喧騒。個人的にはこうした台詞以外の音や映像が好きだったかな。あとはユ・テオの「クロックナ」と「クロゲ」も優しくて好きだった。

東洋的であり、また同時に西洋的でもあり、昼と夜、夜と朝の境界線が溶けて曖昧になり、雰囲気も、何も起こらなさも、沈黙もとても心地良く、優しい。ただこの曖昧さはノラの態度にも重なり、見方によれば少し残酷だ。

フェミニズム作品としても読めそうではあったけど、やはり行き着くところは人間と人間とのイニョン(縁)について。そしてこれがノラの選択を肯定する支えにもなっているようだ。分岐した坂とか階段って東京にも結構あるよなあとか、ノラとヘソンのような関係性がたくさん糸のように張りめぐらされているのかなあとか、そういうどうしようもないことを考えていた。

韓国でも、NYでも、彫刻が印象的だった。あのぐるぐるまわるやつ、初台のあれだ。

最後までなんとなく「うーん」となってしまったのはきっと、上昇志向な主人公に自分が共感しづらかったのと、過去の「たられば」について考えるのが個人的に面倒だなという、ただただ価値観の違いに尽きると思う。そして私はたぶんユ・テオと同じく東洋に留まっている側であり、現世では選ばれることのない側なのであり、決して作品が面白くなかったわけではなくて、少し居心地が悪く、少し寂しかったのだ。

ほぼほぼ同世代のセリーヌ・ソンの自伝的作品ということでFacebookもSkypeのあの呼び出し音も懐かしくはあったし、イニョン(縁)という世界の見方も確かに希望が持てるし、三者が納得できる落とし所だなとは思ったけど、なんだかんだアーサーも会話に入れたれやとは思ってしまったことだよ(本人がいいって言ってんだしイニョンで結ばれてんだからいいのよ)。

ところで「12」という数字にはなにか意味がありや?なしや?というのが気になった。なるほどセリーヌ・ソン監督自身が12歳で渡米して、今年36歳で、ということは、そういうことなのか。偶然か、これもイニョン(縁/摂理)なのか、12年周期になってて面白い。
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