いはん

パスト ライブス/再会のいはんのレビュー・感想・評価

パスト ライブス/再会(2023年製作の映画)
4.1
“もし”は言葉でしか存在しなく、私たちが生きる現実には存在しない。あの時こうしてたら、あーしてたらと思っても、実際にそんなことを自分は何度同じ道を踏んでもしないのだろうと、内心ではわかっている。それを踏まえて、私たちはこんなにも自分が自分であることを悔い、そして、時には信じられないくらい感謝もする。前編を通して、どうしようもないくらいに人生という理屈で説明できないことが詰まった旅路を見せられているのように感じた。特に最後のノラが風に乱れながらアーサーの元へ歩み、その方で泣き出す時、これが人生だよなとしみじみ思った。理屈でわかっていても、心や体がついてこない。ここにきっと感性と理性が混じり合う溜池があるのだな。

現世での君との縁は、結ばれるほど強くはなかった。でもせめて、前世の縁を想像して笑いあったり、来世での再開を心待ちにしてみたりすることは許されるだろう。わたしはそんなシーンに凄くくすぐったい気持ちにさせられたし、凄く胸を暖かくさせられた。私たちの人生は、こんなすれ違いをいくつも経験するのだろう。その切なくも、どこか美しい出会いと別れが、今はとても愛おしい。歳をとって、庭木の展葉や落葉を眺め、お茶を啜りながら、これらの思い出を一個ずつ吟味したいものだ。
いはん

いはん