回想シーンでご飯3杯いける

パスト ライブス/再会の回想シーンでご飯3杯いけるのレビュー・感想・評価

パスト ライブス/再会(2023年製作の映画)
4.2
バーのカウンターにアジア系女性を挟む形で2人の男が並ぶ。この構図が本作のすべてと言って良い。登場人物も基本的にはこの3人のみである。

韓国出身の女性監督セリーヌ・ソンによる作品で公開当初は限られた劇場で公開されていたもののA24の配給経路によって上映が拡大。最終的にアカデミー賞ノミネートにまで至った作品である。A24では他にもアジア系のクリエイターによる作品をいくつか配給してきたが、アメリカでそれら作品が評価される近年の傾向は注目に値する。

セリーヌ・ソンによれば、「パラサイト」のヒットによってアメリカ人は韓国語の映画を字幕で観るようになった、との事で、確かに本作もニューヨークが舞台でありながら、韓国語の台詞もかなり多い。

幼馴染の韓国人ノラとヘソン、そしてノラと結婚したアメリカ人のアーサー。移住やSNSでの再会を経た今時の人間模様である。韓国語しか話せないヘソン、ヘソンと話す時だけ韓国語を使うノラ、そしてアーサーが韓国語のヒアリングさえできない事から、ノラがアメリカ移住後に韓国語を封印していた事を伺い知る事ができる。

韓国語と英語を巧妙に配置する事から浮かび上がる3人の複雑な心理。特にノラとヘソンが韓国語で話している間のヘソンの佇まいに、大きく心を揺さぶられる。テーマとして浮上するのは韓国語の「イニョン」。縁を意味する言葉である。ニューヨークの街並みを背景に、アジア特有の価値観に基づくドラマが繰り広げられる。