このレビューはネタバレを含みます
スマホ市場の果実大戦
テクノロジー業界の興亡は切なさひとしお。
栄枯盛衰をテンポ良く描き切っていてとても面白かった。また近いうちに視聴したい作品。
隠し撮りのドキュメンタリーのようなカメラワークが新鮮!急にズームアップしたり手ブレが臨場感を表して常に不安が付きまとった。
映画の中で主人公の強いこだわりが表現されて、MADE IN CHINAを憎み、ノイズを憎み、手間を憎み、洗練されたデバイスを探求する様はスティーブン・ジョブスを彷彿とさせた。
人類史は同時期に似たような発明があちこちで発生すると聞くが、スマホは北米内のアメリカとカナダで繰り広げられていたのか。内部事情のもつれも、ザッカーバーグが辿ったように親友と袂を別つ流れがあった。悲しい。
ブラックベリーと聞けば、スタイリッシュなレア携帯電話(スマホだったなんて知らなかった!)始祖的なBlackBerryは世界で脅威のシェア率40%だったが、独自にガラパゴスケータイが発展した日本では使う理由は1ミリもなくて、選択肢にも入らなかったことを思い出す。今見てもブラックベリーの端末はかっこいい。Wikipediaによると日本でもシェア獲得に様々なキャンペーンを行っていたみたい。もし私が当時大人だったなら、ブラックベリーを手にしていたかもしれない。
それはともかく、90年代編のオタクサークル風景がめちゃくちゃ良かった。キャラクターデザインが秀逸でコミカルに描かれて、トントン拍子に物語が進むので楽しかった。世界を作るのはオタク達の遊び心なのかもしれない。...ただしビジネスマンの交渉術がなければ実現し得なかったのも大きな事実だ。
オフィスで一日中遊び散らかすオタク達はとても楽しそうだったのに、主人公のラザリディス(珍しい苗字〜ギリシャ系らしい)は常に不安そう。非凡な天才という側面を巧みに捉えて、会話のエラーシーンなどはとてもリアル。内向的性格で世に埋もれてしまう主人公にもどかしい気持ちを抱かせる。宝の持ち腐れで果実腐っちゃうよ。と思ったらスピーディーにジムという鬼CEOを(一悶着ありながら)迎える。ジムはラザリディスに欠けた言語を補完するような存在だし、ダグは社会性を補完してて3人で完成する。なのにジムとダグは直接話し合わない。会話が苦手なラザリディスが間を取り持つ。歪すぎるだろ。
オタクたちは自由の象徴。まったく労働する仕草を見せないので、いずれ鬼CEOジムに首切られるんだろ〜な(ハラハラ)と言う気持ちで見守った。けっこ〜手厚く保護されてたし、なんなら特権階級みたいな具合でエンジニアチーム初期メンオタたちで趣味120%のオフィスに作り替えてたwwwなんだかこのオタク達に愛着が湧いてしまうのも不思議。遊びを愛する彼らを動かし、会社の労働力にするテクニックを最小限の努力で実現させたシーンは残酷ながら目を見張った。
00年代の覚醒ラザリディスの垢抜けっぷりは驚いたし、親友ダグの風貌が1ミリも変わらないのはすごく安心した。(ホンダを手離さなくて信頼度爆向上!意外にもiPod使ってないのもこだわりだろうか?)会社が成長しても自分を変えないダグは心強い。ゆえに、ダグが脱落するシーンはブラックベリーの良心が去るような強烈な寂しさがあった。また、リクルートしたエンジニアと3人で会話してる時は初めてIQレベルが揃ったのかものの数分で新しい理論を組み立てていたので、本来ラザリディスは研究職が合っていたんじゃないかとさえ思えた。ビジネスは残酷で、魂を売って友情を犠牲にして得られるものはなんだったんだろう?傲慢さが破滅を招いた様は聖書に載りそうな勢い。
「時間を売るのではなく自由を売る」
デバイスと制約に縛られていた90年代のビジネスマン達を解放する新しい発想を生み出したブラックベリー。
サディスティックなジムの最初のプレゼンはとても素晴らしく、ハーバード卒である説得力が増した。
自宅を抵当に入れたのは狂気!と思ったけどそれくらい価値ある投資を一瞬の判断で下せる男。本当に本当に実話?どこまでがフィクション?時折流れるフィルム風ビデオのバランスが、またいい味を出していてとても好きだ。
彼の強気の交渉術は見ていて気持ちがいい。自家用ジェットもブラックベリーカラーでカッコ良過ぎる。それに優秀な人材のリクルーティングが法外に上手い。(違法行為っぽかったね)私はアジア系エンジニアがお気に入りだ。そんな優秀揃いの中で、ジムの秘書だけ辿々しいのがまた気になる。お面だらけの室内も気になる。一流の場面でさりげなくブラックベリーを使わせて「宣伝」するアイデアは天才かと思った。今ならセレブ使ってインスタで宣伝させるよね。
iPhoneの出現にラザリディスの反応は痛々しかった。
キーボードに拘ったのは決して間違いじゃないんだよと伝えたくなった。なんせうちの母は2017年まで物理キーのスマホを選んで、ギリギリまでiPhoneを拒絶したユーザーだったもの。それに当時、日本国内ではガラスのタッチパネルは不具合とストレスの連続だと指摘されていたのもよく覚えている。ラザリディスの考えと似た評価が日本では支配的で、初期iPhoneは好奇心旺盛なユーザーが積極的人柱となった数年間がある。その間にジョブスはジム並みに「無茶」を技術職達に求め続けたおかげで進化はすぐに実用化の域に達したのだろう。
ブラックベリーが大切にしてきた部分を妥協して魂を売って、やがて遠い国日本に住むうちの母もiPhoneを使う世界になった。
映画とは関係ないけど、2010年ごろに「BlackBerry Empathy」というめちゃくちゃカッコいい機種情報が出回った。黒曜石みたいなデザインで、全面ガラス張りで物理キーもポチポチついててイカす。
私はこれの製品化をずっと待っていたんだ。
願わくは、ブラックベリーとiPhoneの2強の世界があっても良かったんじゃないかと思う。
追記:
空港での会話でスタンから「時間を売るのに問題点が。1分には1分でしかない」と指摘されてAppleの戦略...「データ通信を売る」ことに気付くジムの非凡さがお気に入り。
よく分からなかったので調べると、当時BlackBerryなど主流企業はビジネス向けにデータ圧縮を売り出していた模様。Appleは「データ通信(2011年〜cloud移行の示唆)」のパッケージを売り出すことでBlackBerryとは正反対の収益モデルを確立しようとしたことにジムは気付いた。iPhone端末+データ容量販売はまったく新しい発想であり、BlackBerryビジネスモデルと正反対だったので、どれだけ脅威だったのかも理解できた。
また、iPhoneがBlackBerryを追い抜いたのは2010年後半期。iPhone 4だ。私も同級生も一斉にiPhoneを持ち始めた時期なのでよく覚えている。