デニロ

宮本武蔵 般若坂の決斗のデニロのネタバレレビュー・内容・結末

宮本武蔵 般若坂の決斗(1962年製作の映画)
4.5

このレビューはネタバレを含みます

/僕は20歳だった。それが人の一生でいちばん美しい年齢だなどとだれにも言わせまい。一歩足を踏みはずせば、いっさいが若者をだめにしてしまうのだ。恋愛も思想も家族を失うことも、大人たちの仲間に入ることも。世の中でおのれがどんな役割を果たしているのか知ることは辛いことだ。/ポール・ニザン「アデン・アラビア」

/青春、二十一、遅くはない!/と意を決した武蔵の物語がここから始まる。

前作でチャラいかんがえを抱き関ヶ原に参陣した宮本村の武蔵は、西軍の敗北によりボロボロになりながら犯罪を繰り返すも、謎の僧侶沢庵、幼き頃からのおもい人お通により何とか人もおもいを信じるに至り、白鷺城での3年の幽閉の間、読書三昧の果てに遂に世界の広さを知るに至る。そして、晴れ晴れとそう言うのだ。

そうは言いながら3年前にお通と約した場所に赴いてしまう武蔵。やはり21歳の青年だ。図らずもその場でお通と邂逅。が、ゆるしてたもれ、と書き置いてお通から遠ざかる。こうしたシーンがこの後も続く。お通も物語の只の飾りではない。強靭な意思と脚力で武蔵の行方を追う。

京に入った武蔵は名門道場吉岡道場で立ち合いを求める。が、道場主吉岡清十郎不在の中、その門弟たちを軽くあしらってしまい敵対感情を与えてしまう。旅を終えたら再訪すると約し奈良に向かう武蔵。道場を訪問して立ち合いを求めるというのがわたしにはどうもよくわからぬのだが、武蔵も奈良宝蔵院を訪れ立ち合いを求める列に加わる。さて、剛力山本麟一の槍に撲殺される牢人を見て控えている牢人は怖気づく。指名された武蔵は躊躇うことなく応じるのだが、宝蔵院の高僧月形龍之介/たわけ、試合は明後日にしておけ/との一喝に山本麟一は頭に血が上ってしまう。一撃。

大きな戦もなくなり巷にあふれる牢人。市民生活を脅かす存在となりつつある。実は武蔵とて同類なのだ。その牢人衆とあやが付き奈良般若野で待ち伏せされる。実は、不逞牢人を一掃してしまおうという宝蔵院の計略だ。大多数の牢人対武蔵。息を吸う、止める、吐く。この場面の殺陣は息もつけない。

中村錦之助は、お通との別れの場面以降、佇まい、台詞回しを大きく変えている。他者からの苦言を聞き入れ、煩悩に苦しみ抑え、しかし、あまりにも優しすぎるひとりの志を持つ青年となっている。

奈良般若野で利用され自分と同じ立場の牢人を屠ってしまった武蔵の苦渋。月形龍之介は小石に経文を書いて死んだ牢人を弔う。/殺しておいて合掌念仏。ウソだ!違う、違う、違う!/武蔵の叫びが宙に響く。このラストシーンを観ながらゾクッとした。何やらかつてどこかで感じた感覚。あ、かつて『仁義なき戦い』で感じたものと同じではないか。

さて、吉岡道場とのたたかいはこれから面白くなるんだけれど、それはまた1年後。

1962年製作公開。原作吉川英治。脚色内田吐夢 、鈴木尚之。監督内田吐夢。

丸の内TOEI 中村錦之助=萬屋錦之介 生誕90周年記念 にて
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