デニロ

ソウルメイトのデニロのレビュー・感想・評価

ソウルメイト(2023年製作の映画)
4.0
27歳で死んでしまったジャニス・ジョプリン。彼女が歌った「Me and Bobby McGee」が大好きだという主人公ミソ。わたしもこの歌が大好きで彼女のアルバム「PEARL」を繰り返し聞いていた。この歌、クリス・クリストファーソンが作った歌で彼女がカバーしたんですが、『ジャニス リトル・ガール・ブルー』という彼女の記録映画のインタビューでクリスはこんなことを言っている。/ジャニスは吹き込んだばかりのテープを聞かせてくれた。僕の歌をすっかり自分のものにしていて,畏れ入ったか、と言って笑っているようだった。作者冥利に尽きる。/

わたしがロックの洗礼を浴びた1970年頃、27歳で死んでしまったロックスターが幾人かいた。ジミ・ヘンドリックス、ジャニス・ジョプリン、そして一番衝撃的だったのはジム・モリソン。最近ではエイミー・ワインハウスも27歳だった。音楽雑誌でまた27歳で、と書かれていた。

17歳のミソは、/あと10年激しく生きて、ジャニスの様に27歳で死ぬ。/それでいいとハウンに告げる。ハウンとの出会いは小学校の頃だ。ソウルから済州島に転校してきたミソは、担任にハウンの隣の席に座る様に指示されるけど、机に鞄を置いてそのまま教室を飛び出して逃げ出してしまう。奔放なのだ。放課後、ミソが佇んでいるところにハウンがやって来て、あんたの鞄、置きっぱなしにしないでよ。優し気で飾りのない父母と暮らしているハウン。方やミソはワケアリ気な母親と暮らす母子家庭。ソウルに帰ってしまう母親よりもハウンと済州島で暮らす選択をする幼いミソ。

ハウンが恋をする。他校の男子ジヌだ。ミソにいたぶられながらもジヌとハウンは付き合い始める。「ゴー・ストップ」。でも、ジヌの視線はミソに向いていたりして、青春の恋に付きものの2対1の関係を仄かに感じます。ミソとハウンのおそろいの耳ピアスや、ジヌがいつも身に付けていたお守りのペンダントの行方が青春のアイテムとして観る者のこころを縛り付ける。

ジヌの視線に気づいたミソは済州島を突然離れるという。突然のミソの行動に悲しみと羨望が綯交ぜになってしまうハウン。こころやさしき父親はハウンが学校の先生になることを望んでいるから。でも、本当は何をしたいのか自分でも理解していない。ミソは、ソウルで働きながら美術学校に通い画家を志す。借りた下宿の部屋で絵を描きまくる。でも、生活に追われ思うようにはならない。寂しさからかハウンには世界中を旅していると、そんな手紙を出す。

ここから先は、「Me and Bobby McGee」の歌詞のような物語になっていく。/Freedom's just another word for nothin' left to lose/Nothin', don't mean nothin', honey, if it ain't free,/そして、/Yeah, Bobby shared the secrets of my soul/ふたりは、魂の秘密を分かち合う。

何をしたかったのか分からなくなっていたハウンに転機が訪れたのはジヌとの結婚が近づいたころ。ジヌのハウンの何たるかをよくわかっていないいくつかのエピソードが挟まれる。ミソ曰く、/ハウンの右頬のホクロが好き/ホクロなんかないよ、とジヌ。ハウンが教員を辞めて絵を描きたいと言うと、何で絵を描きたいの?と返されてしまう。優しくて残酷。もしかしたら、ここから先のわたしは何も莫くなってしまうのかもしれない。彼の態度にそんな明日の予感。ハウンは結婚式場から立ち去る。

ハウンの行く先は、そんなジヌとの明日を棄てて昨日のミソを抱きしめることだった。ソウルの彼女のいた部屋を借り、ミソが手紙で教えてくれた世界を旅すること。

若き二人の女性の連帯を描きつつ、実に女性はマイノリティであるということを鮮明に明示している物語。

ハウンの死亡届。ミソは年齢欄に27と書き込む。
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