たく

マリウポリの20日間/実録 マリウポリの20日間のたくのレビュー・感想・評価

4.0
ロシア・ウクライナ戦争開戦直後のマリウポリの20日間を捉えた衝撃のドキュメンタリーで、ネット配信で観逃してた本作を映画館でやっと鑑賞。ロシア軍にじわじわと包囲されて行く中で、限界まで現場の惨状を記録し続ける製作陣の覚悟に感服した。監督がウクライナ人であり、この戦争も根深い経緯があって一概にどちらが悪いとは決めつけられないけど、本作に収められた民間人に対する攻撃は紛れもなく非人道的行為と言える。第96回アカデミー賞の長編ドキュメンタリー賞受賞に納得。

冒頭は本作のクライマックスとなるロシア軍戦車の民間建物への砲撃直前の映像で、ここから開戦直後のマリウポリの不気味な静寂に戻って1日ずつ追って行く展開となる。監督が、攻撃を恐れる女性を安心させるために「民間人への攻撃はない」と宥めた矢先に民間人の住宅が砲撃に遭い、病院に次々運ばれる被害者の映像が痛々しい。防衛上の要衝であるマリウポリがロシア軍にじわじわと包囲されて行く様子がリアルに伝わって来て、製作陣が生還して貴重な映像資料として世に出たことが奇跡のように思える。

中盤から産科病棟が爆撃されるという信じ難い展開になり、骨盤を破壊された妊婦の映像は正視に耐えない。この映像をフェイクニュースだと言い出すロシア側の狡猾さに、敵国の民間人の命などどうでもいいという権力者の驕りを見る(これは日本も同じ)。怪我をした妊婦が何とか出産し、その新生児を蘇生させるくだりは「娘は戦場で生まれた」を思い出す。ここは全編中で唯一の救いだったね。

ネット環境が破壊されて肝心の映像を送る手段を断たれた状況から、電波の良い場所を探して何とかこのリアルな状況を伝えようとするスタッフの命懸けの努力が涙ぐましい。情報が断たれたことによって現地の民間人が状況を把握できず、ウクライナ軍が攻撃してると思い込んでる人がいたのが虚しかった。戦争とはこうして民間人の預かり知らないところで始まり、訳がわからないまま殺されて行くということが肌で感じられた。終盤で戦車が民間のマンションを砲撃する場面が戻って来て、ここまでバッチリ収められてる映像は、さすがにフェイクとは言えないであろう決定的証拠だった。
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