二瓶ちゃん

夜明けのすべての二瓶ちゃんのネタバレレビュー・内容・結末

夜明けのすべて(2024年製作の映画)
5.0

このレビューはネタバレを含みます

舞台挨拶付き。

BANDAI NAMCO Flimworks asmic ace A J:COM COMPANY HORIPRO

【私史上最高に、優しい映画でした】

原作既読。優しくて、恋人ではないのにかけがえない、そんな原作の持ち味を活かしつつ、上手な改変でその良さを拡大しているように感じました。

「ケイコ」もそうですが、フィルムで撮られた映像として、スクリーンから伝わってくるのは温かさ。カメラが役者を見守る温かさ、物語として全体から醸し出される温かさ、人間の弱さを隠さない物語の温かさもそこに加わっていて、結果とても誰もかも包み込む優しい映画になっていると思いました。

もう、フィルム映画とカメラの温かさと人物の温かさそれだけで、冒頭のシーンからなぜか涙が込み上げてきてしまっていました。

病気のことであったり、機械的に動き続ける社会の流れであったり、そういうことで場面はヒヤッとすることもあるのですが、すかさず音楽も優しく包み込んでくれる、そういう意味で優しい。

全く関係ないですが、以前「優しさの再定義をする」というキャッチがあったから「ぬいぐるみとしゃべるひとはやさしい」という邦画を観たんですが、それはそれは繊細だけど優しさからは遠かったし、結局一人一人の心の傷っていうものからは遠くて、傷物に触れるという言葉に表出されるように、対話とか共助という言葉からは遠かった。滅んで行く社会の過程の一場面を切り抜いたような、そんな衰退を感じさせた。

でも今作は、病であるとか仕事であるとか、考えてみればすごく個人的とも思えるテーマを取り扱っているのに、なぜだか、普遍性を強く感じさせて、人間の再生、人間の生活、そんな根源的なものを感じる。舞台挨拶で監督も言っていたけど、役者は一人で輝くのではなくて、輝き合うもの、そして、私たち観客にもその輝きを生活に与えてくれるもの。エナジーなんて行動的で活気的なものでないけども、生きよう、そういう心を感じる映画だった。

松村北斗さん、上白石萌音さんをはじめとして渋川清彦さんなど役者がみんないい、そして音楽もいいし撮影もいい、演出的でなくも、派手でなくとも、ささやかな、だけど大きな人物たちの動き、心の動きが込められている映画。グッズ展開や番宣も含めて、こういった映画がビッグバジェットで日本で流れ始めていることが希望にすら思えました。

映画見終えて、パンフ買って、隅々まで熟読して感じたのは、原作から拡大された人物の表現が濃すぎて、はっきりと設定が組まれていると思った。でも、しつこすぎない演出のおかげもあってか、すっきりと物語に入り込める。やはり私に映画監督は無理だと感じた。映画監督っていうのは、何より丹念な人間の研究家でなくてはならないのだな、と強く感じた。

いろんな人が見にきていたけど、多分この映画を見にきて幸せになっている人の一人は、推しのアイドルが出ているから観に来たジャニオタだと思う。アイドル映画にしては映画的すぎて、そして生活を照らされすぎて、やられてしまうと思う。

パンフを読んでそれと同時に感じたのが、三宅唱を信じていこうと感じました。ケイコの時に岸井ゆきのさんと共にいただいたパンフへのサインは死ぬまで家宝にしようと思いましたし、きみの鳥はうたえるをもう一度見ようと思いました。

パンフの中で三宅さんは、芸術や映画が人にできることへの可能性について考えている、そんなことが書かれていたからです。

今までの映画に関する鑑賞体験をリセットされる装置のような、とんでもなく良い映画でした。点数はつけられないほどですが、他の満点映画とはまた違って良い映画だった、ということでこの評価。生活をするぞ!

原作改変について読者として。まず藤沢が山添の髪を切りに行くムーブがとても自然になっていてよかった。原作も良かったけど、それだけがなんか不自然な演出だった。あとボヘミアンラプソディの件が無かったのが驚いた。鈴木など職場の人間が思っていたより生き生きと描かれていた。あと、辻本と山添の関係や、辻本自身、あとは栗田社長にあるグリーフ的なものだったり、人物としての実在感を与える脚色がされていたと思う。あとプラネタリウムのことや、栗田「科学」としたところ、あと母親のパーキンソン病設定などは一切原作にないため、映画から本を読んだ人は驚くと思う。でも冒頭にも書いたように、山添と藤沢のなんとも言えない関係、そして人が人を思う心、そういうものが反映されていて違和感なく取り込むことができたし、これも夜明けのすべてなんだと思った。あとプラネタリウムを題材にしていたおかげで、タイトル回収の説明への流れがスムーズだったと思う。

本気の映画。ストーリーも本気であれば、映画としても本気。すごい。寄り添いながらも優しい会社、病を逃げずに描いている。掬われる映画。

あと舞台挨拶で印象的だったのはもちろん松村北斗さんが段差の時のムーブもですけど、「りょう」さんの雰囲気。あと三宅監督のお手紙。

長くなってしまったけど、もっと何かを思いついたら補足する。