ふかい

夜明けのすべてのふかいのレビュー・感想・評価

夜明けのすべて(2024年製作の映画)
4.8
言葉を選ばずに言うと、こんなにニュートラルで色が無い題材ながら、三宅唱節としか言いようがない映画に仕上げてしまうその作家性(その多くは16ミリフィルムの質感に依っていると思われるが)に驚く。
暗いオフィスの中でちょっと段差がある部屋だけ灯りがつく、あのショットが撮れただけで勝ちと思わせる。
遺影に斎藤陽一郎が映っただけで胸が締め付けられる青山真治直系の配役は、「ユリイカ」というよりあの仕事場の感じで「サッドヴァケイション」の方が近いと思う。光石研との関係性もそうだし。
三宅唱作品の中では1番近いのは「ワイルドツアー」かなぁという気がしていた。本作ではプロジェクターを見るシーンが過度に多かったように思えるが、それが原作のテーマ性と一致してたということだろう。
上白石萌音が実家の駅に着くところで知らない家族の挨拶を勘違いしてしまうところとか、松村北斗の「ちょっと1人で怒っててもらっていいすか?」など、クスリと来る小ネタが満載。とても幸せな気分になると同時に、日本の観客ってどうしてこうも映画で笑い慣れてないんだろうと残念な気持ちにもなった。

コメンタリー付きで2度目の鑑賞。
まずこのオーディオコメンタリーが本当に素晴らしく、倍増しで好きになった。以下雑感
・非常に細かい部分までの気配り演出。山添くんが前半は栗田科学のジャケットを着てないとか。ラストショットで映り込む"弟"とか。友達と話しながらみたいと思った。
・街と、人の関係性の移り変わりを描くというところが主題だとしたら、その裏にあるのは渋川清彦の表情を映す映画なんだとも思った。マッチングアプリの話を聞いて微笑する瞬間や、山添の話を聞いて涙ぐむ瞬間。全てを包み込むような彼の存在は非常に大きい。
・光石研の、一発で良い人と思わせる演出が素晴らしい「味のない炭酸って、美味しいの?」
ヘルメットを被ったまま手を合わせる。辞表に対して「あったかくなってきたな〜」という言葉。
・1番好きなシーン:会社を辞めるという藤沢に対して「そうなんすね」の一言で片付ける山添。
・山添の髪が短くなっているところの編集ギャグ。めちゃくちゃキマっている。
ふかい

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