スズランテープ

夜明けのすべてのスズランテープのレビュー・感想・評価

夜明けのすべて(2024年製作の映画)
4.5
素晴らしい。
映画において、脚本の流れの中に、登場人物の「葛藤」が描かれることはスタンダードだが、本作では重要な葛藤が隠された作りとなっており、「夜明け」の背景にある様々な感情、人生を観客に考えさせる作りが見事。これにより人生における恐怖、不穏が逆に強調されており、非常に幸福な映画ながらも不気味な印象も受ける。

見せる情報とみせない出来事がよく練り込まれ、取捨選択されており、「映画」そのものの性質を逆手に取った秀逸な見せない演出の数々は物語の突き抜けた奥行きを生み出し、一本の映画を見る以上の重厚な体験をしたような感覚になる。


均整の取れたショット選択、撮影から映画を感じる瞬間が非常に多いのにも関わらず、尋常ではないほどのリアリティも併せ持っている。特に役者の演技は恐ろしくリアルで、「夜明け」だけを描くこの映画をバランスよく成立させることに大きく貢献していたように感じる。


強い葛藤は映画において観客を惹きつける武器になるが、むしろそれのなりを潜めさせることによって、画面外で驚きの効果をもたらした興味深い一作。映画を作るのが上手いのは勿論だが、映画を理解している人間が作った作品といった印象が強い。うーん。唸る。これは面白すぎる。

三宅監督の作品はチェック必須。恥ずかしながらケイコは未見なのですぐに鑑賞したい。
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