スズランテープ

哀れなるものたちのスズランテープのレビュー・感想・評価

哀れなるものたち(2023年製作の映画)
4.3
不条理なルールを押し付けられた人間の様を見ることが楽しいランティモス映画ですが、今作は不条理から解き放たれまくりの人間讃歌でした。

「監禁」、「人間動物化」といった監督らしい異常なモチーフも物語の中でポジティブな方向に昇華されていく……

いつものドライさ、シュールさ、可笑しな不条理が形を潜めているのは非常に、非常に、残念でしたが、とてつもなく厭世的だと思っていた人が実は人間の可能性を信じてたという吉田恵輔的な裏切りは少し楽しめました。


あとは意外と「監禁からの解放」という物語のフォーマットの中に落とし込まれた映画というか、セックスをふんだんに絡めてきたのは最高でしたが、序盤の旅、特にリスボンらへんは割と退屈でした。「監禁された人が外の世界にでて、未知のものを知る」、よりも「監禁されている人が如何にしてその状況下で外の世界を認識し、何を持ってそこへ飛び出していくのか」を描いた『籠の中の乙女』の方が興味深く鑑賞することができました。


割と負の意見ばかり書いてしまいましたが、映画全体としては非常に楽しめました。面白いし、よくできているし、レンズ選択はなんかもうふざけているし、ウィレム・デフォーの話はあれだけ2時間聞きたくなるくらい面白かったし、無駄に挟み込まれる首無し死体炎上や脳みそ輪切りのような、解剖悪趣味大喜利大会も最高でした。シネコンでこんな攻めた映画を見らられるのもなかなか趣がありますし、こんな映画が王道みたいな扱いを受けているランティモスのイカれっぷりも再認識できます。

映画としてはランティモス最高傑作。ランティモス映画としては私はやはり『籠の中の乙女』を最高傑作に推します。
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