ハシゴダカ

夜明けのすべてのハシゴダカのレビュー・感想・評価

夜明けのすべて(2024年製作の映画)
4.5
とても繊細で豊かで優しくて誠実な傑作だと思った。

映画(いや映画だけじゃないけど)を観るなら、体も心も健康で感度が良い時に観た方がその作品を丸ごと受け止められるとは思う。基本的には。
ただ、本作はちょっと弱っている時に観ても、いや弱っているからこそ、劇中の人々にシンパシーを覚えてしまうようなリアリティがすごかった。

題材はシリアスだけど、重くない。だけど、ふざけているわけでもないし、メッセージが込められているのもすごく伝わってくる。
本作には独特の軽やかさがあって、それが魅力的。

生きづらさを抱える2人をメインに描いた作品だけど、この2人は決して他と比べて特別なわけではなく、周りの人々もそれぞれに傷や悩みや葛藤を抱えているという描写が少しづつ入る。

ともすれば、伏線回収不足とか中途半端とか指摘する人もいるだろうけど、私は全くそう思わなくてこのバランスが、必要最低限かつ本作に広がりや豊かさを与えていると思った。

本作では、誰かから誰かに何かをあげるという行為がたくさん出てくる。
もらって嬉しいものもあれば、そうでないものもあるし、(キツい表現だけど)善意の押し付けだと思っていたら、意外と自分に必要なものだったりして。

自分の中にコントロールできない自分がいると思っていたら、周りではさらに予測不能な贈り物をしてくる人がいたりする。
それぞれみんな違うけど、そんなのは当たり前で、違うからこそ、重なる部分や似ている部分を見つけだし、気が付いたら自分も少しづつ何かが変わっていたり。誰かに何かをあげたくなったり。

何かっていうと差し入れを買ってくる人っているじゃないですか?正直、時々ウザかったりもしますよね。
本作で藤沢さんのその善意の差し入れは、あまりに何回もやるので、コミカルでもあるし少し怖くもある。
でも、それが終盤で反転する。
ここホントすごい。
差し入れで泣いた映画ははじめて。

泣いたと言えば。
割と序盤の、はじめて藤沢さんの前で大笑いしてしまう山添くんのシーンで、もう泣いてしまった。
劇中で大笑いする主人公を観て泣いた映画ははじめて(多分)。

藤沢さんが一方的にあげた自転車で軽やかに町を抜ける山添くんのショットがもうホントに美しかった…。

開いていたトースターを閉じるって仕草で、今日この人は調子良いってのを分からせる演出、なんて繊細なんだ。

序盤のモノローグとエンドロール(ここもホントにいい!)の対比も素晴らしかったな。

何を映して何を映さないかについて鋭い指摘をしているレビューがあり、これは上映しているうちに大画面で何度か観たい作品。
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