マカ坊

夜明けのすべてのマカ坊のレビュー・感想・評価

夜明けのすべて(2024年製作の映画)
4.4
優しい世界?どこが。

際限なく加速する新自由主義の前では栗田科学のような会社はまもなく潰れるでしょう。山添くんは仕事を失い、藤沢さんは新たな仕事と介護のストレスで潰れるでしょう。"病気"は治らないし死んだ人も生き返らないし、諸々なんとなく続いた日常も、いつか自然災害に飲み込まれるのでしょう。今の日本では。

そんな冷笑主義者の醒めた言説すら、この作品の前では夜明け前の暗闇の一つに過ぎない。それが一定程度真実であったのだとしても。

無理やり天体につなげて自分の感想を述べるなら、結局のところ人はそれぞれの人生の軌道を一生を使って一回りするだけで、その途中でたまたま他の人の軌道に重なったりぶつかったりするというだけの事で、そこに運命などなく、だからこそその重なった一瞬の時間だけでも、それぞれのできる範囲でお互いに助け合えれば良いのではないかという、なんとも凡庸な意見になってしまうのだった。いろいろと自分や近しい人の状況と重ねてしんどい気持ちになるシーンもあるけど、最終的には至極前向きな、音楽で例えると、くるりの「温泉」のようなフィーリングが去来する良い映画だった。いよいよ自分発信の企画を進行中との三宅唱の次作にも期待しかない。


今作の個人的なハイライト:
それこそ瞬く星のごとく数多の"人生"がキャプチャーされたり、敢えてされなかったりしている今作において、終盤温度を取り戻した言葉で天体について語る松村北斗の話を、押し黙って受け止める渋川清彦の見切れた背中が、特に深く私の心をこわばらせた。この複雑な心情を宿した肩越しのショットの緊張感たるや…。
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