mzk

夜明けのすべてのmzkのレビュー・感想・評価

夜明けのすべて(2024年製作の映画)
-
私はPMSに悩まされることもなければ、パニック障害を患っているわけでもなく、劇中のふたりが抱える「生きにくさ」に寄り添える人間とは言えないが、己を養う大変さはわかるつもりだ(便宜上、彼らの抱えるものを「生きにくさ」と書いたが、これは適切だろうか)。正直、人並みに一人分の真っ当な仕事をこなすことにも自信が薄い。藤沢さんと山添くんが仕事上で滞ると、そこで既視感と共感を覚えた。同時に寄り添いたいとも思った。
序盤は苦しい展開が続くが、全体的には優しく、穏やかな作品だった。おそらく、私なりに言う「生きにくさ」を抱えた人たちに対する優しさを感じられたからだろう。余談だが、同種の優しさを感じたのは『あのこは貴族』だ。
男性の監督がPMSを作品のテーマに据えるのはプレッシャーも大きかっただろうと思うが、パニック障害を抱える男性の視点を通して、PMSの理解を深める構成は上手かった。そこに至るきっかけはもちろん、関係性の落とし所も清々しい。絶妙なジョークを言い合うのも素敵だった。ギリギリのジョークを言い合えるのは関係性の構築の証明だ。
三宅唱の作品を観る醍醐味のひとつは町の捉え方で、今回も撮影が素晴らしい。特に終盤の山添くんが自転車に乗るシーンの美しさ。些細なシーケンスだが、非常に丁寧で、あそこに彼の変化が詰まっている。山添くんの世界は徒歩圏内が全てだったが、ぐんぐんと自転車を漕ぎ出す。自転車の元々の持ち主と、彼が向かう先。それは、藤沢さんと山添くんの関係性を辿る道程にも思える。フィルムの撮影も相まって、感動は一入。美しさで泣ける。
mzk

mzk