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哀れなるものたちのmzkのレビュー・感想・評価

哀れなるものたち(2023年製作の映画)
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前作『女王陛下のお気に入り』は史実をベースに彼の持ち味が活かされた作品だったが、『籠の中の乙女』『アルプス』『ロブスター』『聖なる鹿殺し』に通じる奇妙さが好きなので、今回の作品は本領と言える。相変わらずのカメラワーク、箱庭的でファンタジックな美術とエマの衣装、音楽も素晴らしい。ランティモスの作品にダンスは欠かせないが、今回も愉快だった。ピナ・バウシュの『カフェ・ミュラー』が参考らしく、それも納得。
ベラの精神的な幼さと肉体の成熟のアンバランスが面白く、好奇心に率直な彼女は性的な欲求にもストレートだった。不思議といやらしさを感じないのは、扇情的な態度ではないからだろうか。楽しそうだった。物語の進展とともに、精神面も成熟を遂げる。世の中の清濁を知り、不条理を知り、自らを知り、自立に至る。
女性の自立という点では、マーサを演じた、ハンナ・シグラのキャスティングには唸らされた。ライナー・ヴェルナー・ファスビンダー『マリア・ブラウンの結婚』の主演も彼女で、これも女性の自立を描いた映画だった。また、マーサとハリーの関係性は、初老の女性と外国人労働者の恋愛を描いた『不安は魂を食いつくす』も思い出す。昨年のファスビンダーの再上映が役立った。
物語に現れる男たちはベラのコントロールを試みるが、ベラはずんずんと自身の道を歩む。生みの親のバクスターも、ベラの自立を嫌がるダンカンも、モラハラの将軍も、コントロール下に置きたいという意味では同じだ。男たちを蹴散らす、ベラの快進撃は痛快だった。物語の落とし所を結婚だが、ボスはベラだろう。娼館の元同僚を招き、読書と飲酒。家父長制もどこ吹く風だ。
ベラの成長の変遷、物語の展開にハマる衣装も印象的だった。序盤の衣装は女児を思わせる幼さ、あどけなさが感じられる。物語の終盤は女性らしさと知性を醸し出すコーディネートに見えた。丈の短い黒のコートとミニスカート、ニーハイ、ブーツの衣装が素敵だった。娼館に勤めるときに羽織っている黄色のケープもラテックス製らしく、それにすっぽりと包まれた姿は穿った見方もできる。ソフト化の際は、衣装と美術の細部をゆっくりと味わいたい。エンドロールで映る調度品の数々も最高だった。
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