FUJIIYOSHINORI

夜明けのすべてのFUJIIYOSHINORIのレビュー・感想・評価

夜明けのすべて(2024年製作の映画)
4.3
市井の人の営みこそ美しい。
人の良心を強く信じている作品。
物語の主題やアティチュードのようなものが全体を通して映像や音楽と調和しており、後半に向かっていくにつれて光が心に染みて温かかった。
夜の街の明かりが星空のようで、儚くも希望を感じる光だった。

分断、抑圧、戦争、政治の腐敗、世の中の様々なネガティブな状況に心が引き裂かれる昨今。今を生きるすべての人に観てもらいたい心の処方箋のような物語。
北極星のような道標なのかもしれない。

主役の藤沢さんと山添くんが素晴らしいのはもちろんなのだが、この映画では周りを彩る配役の、とても誠実なキャラクター造形にも感動した。
印象に残ったシーンとして、同僚の平西さんが仕事終わりに住川さんを外食に誘った際の、
「助かるー、一回家に帰ってダンを連れていく」だったり、
転職エージェントの女性が藤沢さんらと面談中、
「追い焚きってどうするんだっけ?」
と子どもから電話がかかってきたり、
これだけでその人物が持つ背景が立ち上がり観る側の想像力に余白が持て楽しくなる。

固有の病気と診断されている人だけでなく、生活者はみな色々なことを抱えており、その中で社会を形成し、みんなで支え合いながら生きているのだという言わずと知れた事実。
けれど、日々精一杯生きていたら見落としてしまったり、おろそかにしてしまい易いその営みの尊さを、とても温かい利他性をもって丁寧に描いている。

500光年離れた星に想いを馳せるように、他者を想像し温かい眼差しをもって行動する。
自分が辛い時や苦しい時には、他者へ配慮する余裕なんてなかなか持てるものではないが、この映画で描かれている、他者との温かい共生関係によるポジティブな連鎖によって互いの信頼関係を深めていけるのではないか。
今のこの世の中へ対する祈りのようにも感じた。

ラストの夜についてのメモが全部語ってくれている。
僕も、誰かに自転車を貸す時には丁寧に洗車をしたり、誰かのために余分に御守りを買える人間になりたい。
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