FUJIIYOSHINORI

枯れ葉のFUJIIYOSHINORIのレビュー・感想・評価

枯れ葉(2023年製作の映画)
4.2
アキ・カウリスマキの映画を初めて観た。
とぼけたユーモアの中にとても大事なことを語っていたように思う。
ホラッパが退院する時に、親身にしてくれた看護師からもらった服に着替えて出てきた時には思わず吹き出してしまった。

取るに足りるもの。それは刹那的で儚いしささやかであるかもしれないが、それがあるだけで生きる希望や活力になるような魔法のようなものだ。
人々はその営みの上に成り立っている。

愛が全てである。
そして、戦争にはもううんざりだ。


始めはノスタルジックなヘルシンキの風景や衣装にいつの時代の映画を観ているんだろうかと不思議な気分だったが、ラジオから流れてくるロシアによるウクライナ侵攻のニュースを聞いてハッとさせられた。
不条理な社会システムの中で生きる労働者階級の人にとって、日々を生きることは本当に大変なことで、生活の知恵としておつとめ品を持って帰ったり、勤務中にだって飲酒したくなるのも理解できる。
不当に解雇されてもそれでもまた職を探し、生活のために一日一日を懸命に生きている。
市井の人にとっては自分達の生活範囲が全てであり、大きな社会で起こっている事など気にしている余裕なんて無いのだ。
だからこの映画では直接的に戦争の話題は語られない。だがラジオをつけると常に戦争のニュースが垂れ流される。
身近に迫ってくる戦争感が伝わる。
そしてアンサが一言だけ放った「戦争なんてうんざり」という言葉には色々な思いが連想でき、とても重い一言だった。

ここで戦争に対してのネガティブな感情をつらつら書くと、枯れ葉での普遍的な愛についてのエレガントさを台無しにしてしまうのでもうやめておこう。

カラオケバーやパブ・カリフォルニアに漂う雰囲気が良かった。
地方都市に住む僕にとって、地元のスナックや純喫茶に集う行き場のない老人達から漂う場末な空気感に似ていて、ここはヘルシンキなのか?と妙な親近感を覚えてしまった。
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