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シアター・キャンプのはたのレビュー・感想・評価

シアター・キャンプ(2023年製作の映画)
3.4
「シアター・キャンプ」は舞台となるキャンプ場同様、破綻を含んでいる。

この映画はモキュメンタリー形式のはずなのに第三者の介入=カメラの存在をにおわせる描写が全くない。モキュメンタリーというか、ドキュメンタリーは登場人物が隠し事や相談をする際は遠くから本人たちに気づかれないように会話している様子を撮影するはずだ。しかし、この映画ではがっつり被写体に近づきつつ、会話の要所要所でカメラの位置を変えながら重要なシーンが描写される。序盤でモキュメンタリーであることが明かされているのに、モキュメンタリーが醸し出す独自の雰囲気を表現できていないのだ。(演出の雰囲気は海外ドラマの「モダン・ファミリー」に近い)

さらに、この映画には教師、生徒、部外者などあらゆる筋書きを持った登場人物が群像劇形式で描かれるが、それぞれのキャラクターの抱えるストーリーをうまく消化しきれていない。特に、経歴訴訟しているジャネットとプロデューサー気取りのアランのストーリーに関しては、何の伏線もなく、いきなり大きな展開を迎えるため、観客としては疑問を感じずにはいられない。90分程度でこれほどの人物量をさばききるのは難しい。

とはいえ、この映画はキャスト陣による見事なコメディ演技、歌唱、ダンスを堪能できる。主人公的立ち位置のエイモスを演じるベン・プラットとレベッカを演じるモリー・ゴードンは見事な掛け合いを見せてくれるし、技術係のノア・ガヴィンは圧倒的。個人的には、トロイを演じたジミー・タトロがお気に入りだった。彼は「アメリカを汚す者」と同様、どこか間が抜けているキャラクターを演じているが、それと同時に憎めない愛らしさをスクリーン全体に発信している。ポスト・マローンのくだりのあほらしさは最高だ。

そして、何よりも舞台劇として描かれる「ジョーンのままで」が素晴らしい。この劇では、シアターキャンプの責任者であるジョーンの半生がミュージカル形式で表現される。そこで分かる彼女の移民としての半生やシアターキャンプを志した背景から読み取れるのは「誰にでも居場所がある」という彼女の強い信念である。アメリカでは演劇に力を入れる子供たちは「シアターキッズ」と呼ばれている。彼らはスポーツや勉強でうまく輝けない代わりに演技で自己表現をすることで自分たちの居場所、存在意義を確保していくのだが、この映画はそうしたシアターキッズたち、あるいはシアターキッズだった大人たちを称えることに大きく貢献している。

余談だが、この映画を配給したサーチライト・ピクチャーズは、過去に「バードマンあるいは(無知がもたらす予期せぬ奇跡)」という作品を公開している。こちらはブロードウェイを舞台に据え置いたブラックコメディだが、「シアター・キッズ」と異なり、ショービズ界を徹底的にこき下ろしている(主役は中年のおっさんだし!)。シアターキッズたちのきらきらした笑顔を直視できない皆さんは、ぜひ「バードマン」を鑑賞してみてほしい。
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