かささた

Avalon アヴァロンのかささたのレビュー・感想・評価

Avalon アヴァロン(2000年製作の映画)
2.0
この映画は押井守が2001年にポーランドで撮影した実写映画です。当時かなり期待して劇場まで観に行ってつまらなくて脱力して帰ってきた思い出があります。その後も多分DVDをレンタルするかして一回だけ観なおした記憶がありますがやっぱりつまらなかったので脱力しました。
もう観ることも無いだろうな、と思っていましたが最近押井守本人の話が面白かったのと「押井守全仕事」という本を読んだのとで、何となく観なおしたいなと思っていたところDVDを安く手に入れたので購入して観てみました。ちなみに洋画の棚にありました。やっぱりつまらないのですが、つまらない映画をいくら観ても、なぜつまらないかの理由がよく分からないんですよ。
押井守はこの頃CGで映像をいじったり造ったりすることに凝っていて、この映画もポーランドの風景をかなりいじって、モノクロなのだけど少しセピアっぽくて影が滲んでいる、独特の味わいのある世界を作り出しています。本当によくできていてどのカットを切り取っても写真集の1ページみたいです。ストーリーは仮想現実のゲームの中で消えてしまったかつての同志(恋人?)を探しながらも、そのゲームの中であると噂されている更なる上の階層クラスSAへのゲートを探すというなかなか興味をそそる謎解き仕立てです。それにポーランド軍が協力しているゲーム内の戦闘シーンは当時最新鋭のCG技術を使っていて見せ所として十分です。主人公アッシュの外観はまるっきり草薙素子ですし、題材も電脳世界で攻殻機動隊の要素が色濃く、またかつての同志を探し出して過去の因縁の決着をつける、という展開はパトレイバー2を思い起こさせます。つまり攻殻+パト2なんですよ。面白くならない要素がどこにも見当たらないのになぜか面白くない。勿論撮り方やカットのつなぎ方が学生映画っぽいとかいろいろあるのでしょうけど、僕はもっと根本的なところにこの映画のつまらなさが潜んでいるように思いました。
この映画には「ゲームだと思っていたらどうも現実らしい」みたいな、虚構がただの虚構ではなくて現実を侵食して来る怖さを狙ってくるところがあります。それ自体は押井守がそれまで得意とする分野なのですが、得意としている筈なのに今回に限ってはまったく真に迫ってこない、言い換えるとリアリティが無いんです。
これは間違いなく意図的なのですが「AVALON」という名前のゲーム内世界とログアウトした現実世界とが同じ色調で作られているんです。セピア調の美しい現実感のない世界がゲームの中でも外でも広がっていてそこに違いは強調されていない。ここで観客は躓いてしまうんですよ、映画がそもそも架空のものなのに、その舞台がゲーム内でさらに架空の世界、その二つが同じような世界にしか見えない・・・リアリティが二重に否定されてしまっているんですよね。
対してクラスSA(クラス・リアル)の世界はこれも意図的にゲームの中の世界とも現実の世界とも違って、フルカラーでまさに「現実のポーランド」以外の何物でもない。ゲーム内の最高階層こそが映画の中においては現実そのもののように描写されているんです。この転倒、この錯誤はどちらが虚構でどちらが現実なのか、という疑問を誘う意図があるのでしょうけど悲しいかな誘いきれていない。ただただ混乱するんです。
僕はこの映画はポーランドでは無くて日本の狭いアパートでモテない専門学校生かなんかを主人公にした方が面白かったのかな、などと思いました。ポーランドのパートはゲーム内に限定すればよかったんですよ。どこかで現実や世相というものと映画そのものは接点を持たなければ観る人の中にリアリティは生じないとしても、それが現代のポーランドである必然性が押井守の中にあったのかどうかはなはだ疑問だ、というような映画でした。
ところでこの映画を最後にずっとコンビを組んでいた脚本の伊藤和典が押井守の映画から離脱します。この映画で何かトラブルがあったんだろーなーと長い間勝手に思い込んでいたのですが、上記の「押井守全仕事」にある伊藤のインタビューに、アヴァロンの少し前から伊藤は押井から絶交されかけていたのを、何とかアヴァロンには参加させてもらったというようなことが書かれていました。その絶交の原因というのが「伊藤が犬を外で飼っていたから」だそうです。押井によれば犬の外飼いは虐待に当たるそうです。押井守は同じような理由で宮崎駿とも過去に喧嘩をしています。犬好きすぎでしょう。
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