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アナログのnetfilmsのレビュー・感想・評価

アナログ(2023年製作の映画)
4.0
 北野武の傑作はバイク事故前の『あの夏、いちばん静かな海。』や『ソナチネ』だと断言して止まない私にとっては、武がこのようなラノベ的な物語に舵を切ったことに第一印象としてびっくりした。原作は未読だが明らかに賞レース狙いの原作の内容なのだが、今作が純粋に駄作だとは思えなかった。デザイナーの水島悟(二宮和也)はどこか飄々とした人物で、建築事務所に勤めながら少しエッジの効いたデザインがクライアントの評判を呼ぶ。彼自身が初期に手掛けた広尾にあるコーヒー・ショップ「Piano」の内装は水島に寄るもので、店主(リリー・フランキー)も気に入っている。そんな水島が勝手知ったる「Piano」の店舗内で、ある日偶然美春みゆき(波瑠)という女性に出会う。21世紀的な物語の根源的な欠落は携帯やSNS的なサービスに負うところが大きい。デジタル・ネイティブ世代にはWi-Fiが飛んでいない世界などあり得ないのかもしれないが、昭和世代にとっては物理的なLINE交換やインスタ・フォロー以外には電話番号を交換しかすることがなく、番号を交換出来なければそれ以外に手段など無かった。駅の掲示板に場所と時刻を書き出せば、奇跡的に応答出来た現代ではあり得ない奇跡のような世界線。

 毎週木曜日、同じ場所で会う約束をするという行為に奥手の主人公・水島悟(二宮和也)は縛られる。高木淳一(桐谷健太)と山下良雄(浜野謙太)という腐れ縁とは断言出来ない彼ら3人の強固かつ不思議な世界に思わず魅了される。美春みゆきが醸すデジタル排除の指令はデジタル・デトックスが必要な世代への恐るべき注意喚起となったはずだ。Wi-Fiが網羅されていなくとも昭和的に同じ店で人々は惹かれ合う。決して奇を衒うことも大上段に構えることもなく、タカハタ秀太の演出はひたすら丁寧でオーソドックスな演出を心掛ける。二宮和也の演技そのものも『ラーゲリより愛を込めて』以上にひたすら胸に響く。北野武はアナログ世代とデジタル世代との差異を声高に登場させながら、令和時代に昭和的なすれ違いが起きればどうなるかを紡いで行く。串焼き屋の楽しい酩酊状態のジャンプカットの妙味。大阪時代の水島悟の元にせめて1本メールかラインをよこせば良いものを、高木と山下がわざわざ大阪の職場までやって来るというアナログ的な律義さ。そして『あの夏、いちばん静かな海。』や『ソナチネ』を思わず想起する様な海辺での糸電話。距離を簡単に詰めるのではなく、丁寧にじっくりと距離を詰めて行った昭和の恋愛美学と不器用な男の足跡を描くが故に、コンサート・ホールのみゆきの涙からの転調が見事だった。もし北野武が監督していれば『Dolls』のような狂気の世界に舵を切ったはずで、奇を衒わないタカハタ秀太の真っ直ぐな演出が活きた。
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