Kuuta

ドキュメント サニーデイ・サービスのKuutaのレビュー・感想・評価

4.0
ラーメン食ってカレー食って、ライブをやって機材を片付け車で移動する。関係者のインタビューを屋内のフィックスで収めるのとは対照的に、曽我部、田中両氏は運転中、食事中、散歩中に話を聞いている。「海賊のように」その場に止まらず、だけど地に足付けて飯食って生きているサニーデイ・サービスを印象付ける狙いがあるのだろう。

田舎から東京へ出て、東京に引け目を感じながらも自分のやりたいことをやったという曽我部氏。彼の地元・坂出市の海沿いで行ったライブ映像を見ていると、風船讃歌の「潮風」の意味も伝わってくるような気がした(このライブの終わり、カメラは坂出から本州に向かい、瀬戸大橋を渡っていく電車を捉える)。

2020年1月から始まった密着は、期せずしてコロナ禍のバンドが直面したリアルを、時に曽我部氏のカレー屋の様子も交えつつ、有観客、配信などのライブ形式や日時と共に記録していく。世の中の動きが止まろうが、風に吹かれていくバンド。静と動の対比の頂点が、終盤の「春の風」のライブシーンに置かれている。

演奏が最高潮に達した時、カメラはステージから引き、客席でサニーデイ・サービスを見る、キャップを被った名も知らぬ兄ちゃんの後頭部を捉える。原則着席で声出し禁止、そんな中で響くクソかっこいい演奏に、その兄ちゃんは堪えきれなくなったように何度も頷く。

当然これは、映画館でこの映画を見ている自分には共感マックスで、座って見ているしかない俺、当時の社会状況、何で動けねーんだ、奴らはこんなに動いてるのに!という感情が爆発して泣いた。ここでこのショットを入れるカンパニー松尾は素晴らしいと思った。サニーデイは今年は出演しないけれど、週末のフジロックに向けてよく分からない気合いも入った。

ちなみに私自身は90年代のサニーデイはそんなに知らず(CDは東京しか持ってない)、曽我部恵一BANDでガツンとやられ、再結成後はそれなりに聞いている、くらいのライトなファンです。90年代のライブ映像を抑えて現在の映像を優先させる判断も、自分のような世代にはしっくり来ました。
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