マインド亀

食人族4Kリマスター無修正完全版のマインド亀のレビュー・感想・評価

5.0
●たしかこの作品の噂を聞きつけたのは小学校3年生だか4年生の時。「ジャングルの奥地に人を食べる民族がいてな、それを撮影したビデオテープがあるんやって!食人族ゆうんやって!」小学生にはセンセーショナルなニュースで、友達のお兄ちゃんはそれを観て人を食べるところを観たとかなんとか、子供心に想像するだけで怖いのに、どこかであの串刺しポスターを観てしまってからは、いつか自分が食人族に食べられてしまいやしないかと夜な夜な想像しては震えていたのを思い出します。それから数十年以上、自分の中でとにかく観たくない悪趣味映画としてランキング上位に置いていたこと、そして観やすい環境ではなかったこともあり、映画秘宝読者にも関わらず、ついぞ観ないままこの歳まで放置してきました。したがって、『グリーン・インフェルノ』ですら怖くてまだ観られてないのです。小学生の時の怖い気持ちって大人になっても強く残存するんですよね。
しかしながら今回のこの4K無修正版の上映があり、これを逃すと一生観ないままの人生を送るのでは、と焦燥感にかられ、とうとう鑑賞しました!

●結論から言うと、なんで今まで観なかったのかというくらいの最高の映画でした!ドキュメンタリー風ですが極めて映画的で、時系列を反転させた話の筋立ても素晴らしく、心に哲学的な問いがしっかり入ってくる、単なるキワモノ映画ではない、上質な映画だと思います!
確かに、亀の解体など、近年の映画では絶対に映らない目を背けたくなるような、動物を殺すシーンがあります。これは前時代的な倫理観で撮影されたもので、これがこの映画の正当な評価をしにくくしている部分ではあります。しかしながら、映画にも出演した現地の方々が食べているものをそのまま映していることを考えても、ここだけを切り取って「気分が悪い!最低の映画だ!」などと糾弾するのは考えなくてはいけないのではないでしょうか。「尊い命に、尊厳や優しさ思いやりを持てない、腐った人間が作った映画」など言われることもありますが、むしろその逆で、この映画のテーマを考えると、この映画を楽しく見てるような現代人こそが腐った人間だと皮肉を込めて言っているのだと思います。
また「無修正版」だけあって、局部がしっかり見えちゃいますが、むしろこれ、修正版だったら余計に卑わいに見えたんだろうなあ、というくらい気になりませんでした。あんまりその辺の免疫がない人は気をつけてください。

●ショッキングなシーンだけではなく、美術面も素晴らしい。特にあの住処を作った美術担当にはアカデミーに相当する賞をあげたほうがいいと思えるくらい、禍々しくて、それでいてリアルで美しい。そしてそこに本当に住んでるとしか思えない人々の演技とメイク。こんなところに行ったら絶対に帰って来れない気がしますよね。

●それでも、調査隊を救助に向かった救助隊は帰って来るのです。しっかりと彼らに尊厳を持ちながら接していれば決して殺されることはない。そのヒリヒリとしたやり取りや、交流が始まってからの牧歌的な美しさを先に見せといて、その後に調査隊の非道の限りを尽くした行動から全滅までをしっかりと見せてくるので、むしろ食人族側を応援したくなるんですね。
実際にホロコーストを行ってるのは調査隊なわけで、レイプや虐殺、現地人を人とも思っていない白人優先思考が鮮明に浮き彫りにしています。食人部族は弱い存在だったわけで、もうこの時点で私が想定していた映画とは全く違っていて、衝撃を受けました。そして最後に映し出されるコンクリートジャングル。この対照的で素晴らしいラストを観ればこの作品が傑作と言われる所以が分かります。
この映画を見世物的残酷映画ととるか、人間の業をテーマにした傑作映画ととるかは、誰にもわかりません!皆さん次第です!是非観る機会があれば観てください!
マインド亀

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