Jun潤

セフレの品格(プライド) 決意のJun潤のレビュー・感想・評価

4.2
2023.08.05

城定秀夫監督・脚本作品。
濃厚な人間ドラマとベッドシーンからこちらの価値観も情緒も揺らがせにきた前作から続く後編。
『初恋』で耐性はついたはずなので、今作こそはフラットな視点で映画として評価できればと思うばかり。

セフレとして、体だけの関係を続けていた抄子と一樹。
そんな日々が続く中、抄子が一樹の家を訪ねると、謎の少女・咲がいた。
困惑する抄子に一樹は事情を説明する。
咲は両親の虐待から逃れ、援交を重ねては妊娠と中絶を繰り返しており、一樹のクリニックを受診した患者の一人だった。
咲の心のケアのために抄子も一樹と共に彼女を支えていくが、咲の中には抄子に対する激しい嫉妬が生まれていた。
咲の狂気は、昔の知り合いが抄子を暴行するにまで至る。
咲のためを想って被害届を出さないよう頼みにきた一樹に対して抄子は怒り、セフレの関係を絶つことになる。
一樹への未練を断ち切るように仕事に邁進する抄子だったが、会社に出入りする清掃員でプロボクサーでもある猛からの好意に気付き、彼の所属するジムでエクササイズの一環として拳を交わす。
しかし、もう恋愛はしないと決めた抄子が縛ってきた性欲と、一流ボクサーになるために縛ってきた猛の性欲は、ついにセフレという関係でぶつかっていく。
そんなある日、咲が抄子の元を訪ねてくる。
咲の18歳の誕生日、抄子と一樹、咲と猛の想いが交差するー。

まずはスコアについて、前作のレビューでも触れましたが色々と感情が混ざってしまい純粋にスコアを付けられなかったので、二部作の総合評価は☆4.6ということで、今作の評価はこんな感じですね。

ストーリー的には前作でだいぶ丁寧に肥沃な土壌にしていただいたので、セフレという歪な関係に始まり、男も他人事ではないいつまでも若々しくいたいという欲求、そして関係をさらに複雑化させる咲の存在、『品格(プライド)』を持った上で抄子が欲望をぶつける猛の存在と、それはそれは描写が豊富過ぎました。

キャストに関しては咲を演じた髙石あかり一択ですね。
虐待、援交、妊娠、中絶、そして身を引き裂かれた胎児を目の当たりにし、一樹に対する歪んだ独占欲から発せられる狂気と、ここまでくると女性版和製JOKERでもおかしくなかったのですが、そこはきちんと救われて、希望を残してくれました。
そんなキャラクターの作品内の立ち位置も内面の感情も複雑で大きく揺さぶり揺さぶられる役どころを、清原果耶にも引けを取らない平凡な顔つきから繰り出される非凡な表情でもって演じ切っていました。

カメラワークや演出についても、前作でもあった鏡を使った画角や女性の表情の引き出し方の巧さもさることながら、今作ではピンボケを利用した遠近感と視線誘導の仕掛けや、悩める男の表情の引き出しの多さも如実に表れていましたね。
特に個人的にはやはり、ボクシングという拳と拳のぶつかり合いからセックスへと至る流れにはもはや美しさすらあり、AVかな?という疑問が浮かぶことすらなく純粋に濃厚な人間ドラマとして観ることができました。

結末についても、どのように着地しても納得せざるを得ないような描写を重ねつつ、未来ある若者達への希望や、失っていくだけではなく熟れるほどに増していく大人達の魅力、そしてセフレにも恋愛にも良い悪いや常識非常識はなく、お好きな方へ行ってらっしゃいな感じが本当に見事な落とし所だったと思います。
Jun潤

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