Jun潤

秒速5センチメートルのJun潤のレビュー・感想・評価

秒速5センチメートル(2007年製作の映画)
5.0
2024.04.03

新海誠監督・脚本作品。
『君の名は。』以降、アニメーション映画のヒットメーカーとして名が売れた方かと思いますが、いわゆるアニオタの方々からしたら今作が入口という人も多いのでは。
かくいう僕もその一人で、僕と新海監督の出会いともなった思い出深い今作が、Filmarks様主催のプロジェクトでリバイバル上映とのことで、今回レビュー用に改めて鑑賞です。

第一話『桜花抄』
「秒速5センチメートルなんだって。桜の花びらの落ちるスピード。」
小学校卒業と同時に東京と栃木で離れ離れになってしまった遠野貴樹と篠原明里。
明里はかつて貴樹にそう告げた。
半年後から二人は文通を始め、貴樹が東京から鹿児島に引っ越す中学2年生への進学のタイミングで会うことを約束する。
しかし、豪雪による電車の遅延から、再会できるのかという不安と共に、将来への漠然とした巨大な暗がりが、二人を覆おうとしていた。

第二話『コスモナウト』
鹿児島県種子島。
高校生の澄田花苗は、進路のことも考えられないほどサーフィンに夢中だった。
もう一つ夢中だったのが、同級生の遠野貴樹。
中学時代に東京から越してきた彼には、時折花苗が想像できないほどの遠くを見ているような雰囲気があり、彼女は同級生の一人から関係を進めることができないかと焦っていた。
そんな時、島では宇宙開発のためのロケット発射の準備が進んでいた。

第三話『秒速5センチメートル』
東京。
なんとか自分を留めていた糸がプッツリと途切れてしまった遠野貴樹は会社を辞めた。
そして、踏切で見覚えのある女性とすれ違った際、小学生時代からの思い出を追想する。

小学生時代の想い人が、社会人になってからも自分のことを覚えていて、街ですれ違ったら振り返ってくれる、そんなことあるわけないだろうがぁぁ!
貴樹がそう期待しているかのように見えるキモ男(褒め)ムーブをしているのが今作の肝。
このキモムーブを最近の新海誠はしてくれなくなって、万人受けしやすい純愛ものにSFを絡めるようになってますね。
それはそれで監督のクリエイティビティが発揮されるので良いは良いのですが、個人的には今作のような恋愛に夢を見過ぎている人に現実を見せて突き放してくるような作品の方が好きです。

オチというか貴樹のその後を知っているから、作中での彼の動きに対していちいちニヤニヤできましたし、僕が今作を初めて見たのがまだまだ恋に恋するウブな年頃だったので、当時は突き刺さるものもありましたが、今の年で今作を見ると、青春時代の恋愛の儚さ、将来まで長く続くことのない恋愛の現実などが垣間見える作品でした。
しかし最近の新海誠作品のように、田舎と都会を対比して描く手法は今作から健在だったものの、今作ではSF要素を全く絡ませず、あくまで現実の物語、物語と言っていいかもわからないぐらいの感情の極小の動きを描いていて、これはこれでアニメーションが持つ表現力を一段階押し上げていたと思います。

終盤にかかる山崎まさよしの『One more time, One more chance』もかかるタイミングが絶妙過ぎて、貴樹の心情に寄り添っているように聞こえますが、よくよく物語を噛み砕いて解釈してみると貴樹の妄想甚だしく、お前はそうじゃないからなと心の中でツッコんでみたくなりました。笑
Jun潤

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