りっく

ライ・レーンのりっくのレビュー・感想・評価

ライ・レーン(2023年製作の映画)
3.6
トイレの各個室での人間模様を俯瞰しながらスクロールしていく演出から、この新進気鋭の監督は自分だけのスタイルを持っていることが分かる。そして、それはオシャレで奇を衒っているのではなく、男と女の2人だけの盲目のロマコメの世界と、彼らが出会う1日の世界との距離感や関係性を、印象的な画面の連続で表そうとしているように感じる。

例えば物語に一切絡んでこない全く関係のない人物をメインで映し出し、主役の2人は画面の隅の方に置いておく。そう思いきや、次のカットでは2人が大写しになるような視覚的なリズムや様々な画角や映像技巧を凝らし、鮮やかな色使いやオフの音の使い方がいちいち面白い。

それらは、ほとんどの景色や人物はまるで背景のように通り過ぎて人生にこれっぽっちも関与しないという事実と、そのような景色や人物があるからこそ自分の人生が彩られ支えられているような事実を感じさせるものだ。ミュージカル展開になる等の分かりやすい異化効果になるギリギリのところで踏みとどまり、現実にきちんと軸足を残しているからこそ、映画が浮かれすぎることはない。

人間の口をテーマにした展示会のトイレの個室の隣同士で出会った男女が、人間の尻をテーマにした展示会で映画内ではフィナーレを迎える。それは失恋したクソみたいな感情が排泄・浄化され、二人で新たな一歩を踏み出すことを下世話なユーモアも含めて示している。
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