ベルベー

夜が明けたら、いちばんに君に会いにいくのベルベーのネタバレレビュー・内容・結末

4.0

このレビューはネタバレを含みます

他人の生き方を否定するって良くないことだよね。いや悪いこと。でももしかしたら、10代は人の生き方を否定してでも、自分の気持ちを相手にぶつけることが許される唯一の時期なのかもしれない。そしてそれを青春と呼ぶのかもしれない。そんな詩的な気持ちに浸りました。エモかったです。

話は真新しいことをしているわけではなく(ただマスクが手放せなくなってしまったというのは今の子的には私世代以上に共感ポイントか)王道と言って良いと思う。2人の葛藤の裏にいじめや病気があるのもキラキラ映画の定石からは外れていない。ただ、ひたすらに2人の関係性を通してそれらの葛藤や社会との向き合い方を描く。それはいっそセカイ系とすら言えるかもしれない(原作は少女漫画ではなくスターツ出版のジュブナイルで、セカイ系に近いアプローチが多い分野です)。台詞もかなり詩的で、普通にやったらただただクサい。

でもそんなこと気にならない、というか自分もその詩的でクサい世界観に乗ろうと思えたのは、主演2人の好演とそれを引き出す監督の手腕があったからだ。白岩瑠姫はJO1のメンバーで映画初出演だけど、良いキャスティングだ。粗暴だけど人望はあってでも何かを隠してるような弱さも見える。芝居は多少拙いけど一生懸命でオーラがある。ジャニーズともLDHとも芝居中心の若手俳優陣とも違う雰囲気で、パッと想起したのは「タイヨウのうた」の時のYUI。普段演技をしない人だからこその良さを上手く引き出している。

久間田琳加は結構前から観るけど今年になって「君に届け」「おとななじみ」となんか覚醒ゾーン入ったなと思ったら、本作で大覚醒していた。クラスに馴染めていないわけじゃないけど、マスクが手放せず本音が言えない少女。いじめられっ子とはまた違う複雑なニュアンスを、瞳の演技で表現している。これもキャスティングの功だと思うんだけど、口元が隠れているのといないので雰囲気が変わるんだよね彼女。この役にピッタリな貌なのです。

そんな久間田琳加のことを白岩瑠姫は「嫌いだ」と一刀両断する。更には「悲劇のヒロインぶるな」とまで。容赦なッ!言うほどぶってないよ!そりゃ久間田琳加も戸惑うし終いにゃキレるよ!しかしこの苛烈で不器用な否定が彼女との繋がりとなり、2人を近づけていく。これ、お互いに生き方が定まっていない10代だからこそ許されることだよね。

そういえば私も10代の頃はよく他人を否定してしまっていた。なんであんな大人気ないこと言ったんだろうって、後々罪悪感に苛まれることもあったけど、あの時はあの時で良かったのかもしれない。そうやって全力でぶつかることが必要だったのかもしれない。本作を観てそんなことを思った。

大人になってから他人を否定するってイコール絶縁覚悟ですからね。お互い生き方わりと定まっちゃってるから。おいそれと否定できないし、なんならする気も起きなかったりする。否定したところで変わらないだろうという諦め(もしかしたら驕りかも)もある。「ああ君はそうなんだ、じゃあ私とは合わないね」で終わる。大人になるって嫌なことだな。

そんなしがらみに囚われない2人を映すカメラが、また青春要素を補強している。特筆すべきは空の広さと綺麗さ。空見るだけでエモいってどんだけ単純やねんと思うかもだけど、空だけでエモくなれるのは撮り方が上手いからだね。屋上に向かうまでのタメ含め、一番美しい空に見えるように設計されている。青空も夜空も、そして夜明け前の空も全て美しく撮れている。

酒井麻衣監督は「美しい彼」は観てないのだがテレビドラマの「荒ぶる季節の乙女どもよ。」と「明日、私は誰かのカノジョ」は観ていて、これらは深夜ドラマだからコスト的に制約あったんだろうなと苦慮が見えたし「明日カノ」に関しては正直サブ監督回の方が…とかも思ったのだけど、今回はロケーションから劇伴までこだわり抜いてて非常に良かった。そういえば「はらはらなのか。」も本作とはちょっと違う作風だけど、こだわりが見える良作だったな。次回作も注目です。
ベルベー

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