うかりシネマ

窓ぎわのトットちゃんのうかりシネマのネタバレレビュー・内容・結末

窓ぎわのトットちゃん(2023年製作の映画)
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このレビューはネタバレを含みます

トモエ学園に入学したトットちゃんの約5年を描く。
シンエイ動画らしい優しい作画と美術が渾然一体となって、戦前から戦中を描かれている。複数の人物が一つのカットで同時に動き、それを目で追うだけで楽しい、“アニメーションを見る”悦びがそこにある。
トットちゃんの空想は絵本のようなタッチで描かれて、映画<スパイダーバース>シリーズを連想する。こちらは独立したパートだが、日本人の心、原体験が「和」や「田舎」といったものではなく幼少期に読んだ絵本で表現されているのが面白く、カメラを自由に動かし温かなタッチや水彩表現で輝いて表現される。

背景も当時の街並みが再現されて、人々の暮らしがリアルに感じ取れる。劇中歌として使われるレコードも音が悪く、当時の人が感じたままがそこにある。建物やお祭りの屋台にも見慣れないものがたくさんあり、一つひとつを解説してほしいほど。
天真爛漫なトットちゃんの視線で切り取られるので明るく描かれてはいるが、ストーリーは絵柄に反してかなりヘビー。後半は戦争に突入し、美しかった街からは彩りが奪われる。完璧に再現されたそれらは、銃後でありながら戦争の悲惨さを物語っている。
全体を通して言葉で語らないので、台詞にされるよりも考えさせられる。反戦メッセージは一箇所を除いてないが、直接描くよりも雄弁に聞こえる。
トモエ学園では「リズムありき」と教えられ、トットちゃんも歌で救われようとするが、戦時下ではそれすらも封じられ、日本軍を応援するデモは歌を武器にする。

一つのシーンが複数の意味を持っており、リフレインやメタファーが織り交ぜられているのも巧み。
例えばひよこのシーンは後に来る展開を予感させ観客に覚悟させると同時に、終盤では別の意味が生まれる。またそのひよこを買うシーンは、絵本のシーンやラストと繋がる。
トットちゃんにとってのクライマックスも、ただドラマとしてそこにあるだけでなく、戦争と連動することでより効果的に描かれる。

芸能人吹替はレベルが高く、黒柳徹子は「校長先生を演じられる人がいない」という理由で映像化を断ってきたそうだが、小林先生演じる役所広司を筆頭に、杏は言うまでもなく、滝沢カレンも独特の声色が世界観に合っており、イメージを逆手に取ったシーンもよかった。
何より7歳の大野りりあなの演技が上手く、純真で元気に満ち溢れたあらゆる感情を表現できていた。泣く演技一つとってもシーンの意味に合わせて演じ方を変えていた。
子供はこういう「勉強」っぽいアニメは好まないだろうし、大人は児童っぽさで敬遠しがちだが、大人こそ楽しめるアニメだった。