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はたらく細胞のCHEBUNBUNのレビュー・感想・評価

はたらく細胞(2024年製作の映画)
3.7
【人体スクリューボール・コメディ】
動画版▽
https://www.youtube.com/watch?v=q9QNeCCSRV8

優先度は低かったのだがTLの評判が高かったので観に行った『はたらく細胞』。こういう動機で観る作品ほど掘り出し物だったりする。すっかりアメリカ映画が忘れてしまったような膨大な人を扱った群れのアクションはもちろん、的確な建築空間の使用、スクリューボール・コメディとしての良さが詰まった年末ファミリー映画であった。

まずなんといっても、こちらの方が『人体の構造について』というべきであろう画による説明描写に惹きこまれる。社会主義国特有の長いエスカレーターにより、膨大な細胞が役割のためだけに運動を行う様が肉付けされる。そして、複雑な血管の構造を象徴するように東京国際フォーラムが起用される。メインとなる舞台はゴシック建築があるヨーロッパ調の土地となっている。ゴシック建築は都市集約型の労働環境が整備される中で、激密都市生活によるストレスを和らげるため高い建物や光を取り込むステンドグラスによって癒しがもたらされる。救いを求めるないし救いを与える場として機能するゴシック建築が人体の危機と共に廃墟になっていく様は効果的な絶望感を与える。このように、一見するとバラバラに思える建築様式はまるでブリュノ・デュモン『L'Empire』さながらシステムを語るために密接に関わっており、フィクションならではの強みが活かせている。

また、蓮實重彥が「ショットとは何か 歴史編」でスクリューボール・コメディを《婚約の破棄》と定義していたが、変則的にその流れに準じている点も興味深い。一見すると感情なき細胞の話であるにもかかわらず赤血球と白血球が恋愛関係に陥りそうな危ない橋を渡る。大衆娯楽映画として共感のためにそのような描写は必要だったりするが、決してふたりが恋仲として結ばれることはない。感傷的な場面が幾度となく押し寄せても、同志としての関係性を維持したまま着地する点はお見事である。そして、赤血球のドジにより、問題が発生し、それが人間に影響を与え、修羅場の連続へとなっていく点が本作の新規性であり、スクリューボール・コメディに多層的な視点が備わっているといえよう。

流石にアクションこそは膨大なエキストラを起用した混沌を描きつつも、せいぜい対象と背景の関係性に留まっており、ロングショットもそこまで切れ味は良くないのだが、終盤『デューン 砂の惑星 PART2』さながらのロングショットを決めてきて、油断大敵であった。

これは観て正解、満足感の大きい一本であった。
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