耶馬英彦

バカ塗りの娘の耶馬英彦のレビュー・感想・評価

バカ塗りの娘(2023年製作の映画)
4.0
 津軽弁は、駒井蓮が主演した映画「いとみち」で聞いたので、本作品の津軽弁も大体は聞き取ることができた。「食べなさい」や「食べろ」は「け」の一音だ。寒い地方だからあまり口を開かなくていいように、言葉が短くなったという説を聞いたことがあるが、ちょっと怪しい。
 東京にいると、津軽弁に接するのは映画やテレビドラマが殆どで、だからなのか、人柄が純朴で正直な印象を受ける。
 本作品の登場人物も口数の少ない朴訥な人々に見えた。それだけ役者陣の演技がよかった訳で、父親役の小林薫やばっちゃ役の木野花が上手なのは、キャリアからして当然だが、ヒロインの美也子を演じた堀田真由の津軽弁と表情が思いの外よかった。堂々たる主役ぶりだ。
 寡黙な家族とは対照的に、やたらに喋る母親はあからさまに中身が空っぽに見えたから、「沈黙は金」という諺はその通りだなと思ったりもした。片岡礼子も上手い。

 印象的だったのは、漆塗りの名人のおじいちゃんの「漆は、やればやるほど面白い」という台詞だ。職人の世界の奥深さを端的に表現した名言である。美也子はその世界に足を踏み込んだばかり。探検はこれからだ。
 SNSの時代らしい展開が最後に待っている。世界は縦にも横にも広がっているのだ。人生は出会いと別れ、幸せと不幸せのまだら模様だ。美也子にも波乱万丈、紆余曲折の人生が待ち構えているだろうが、津軽塗と津軽弁を両方とも貫いてほしいと願わせるものがある。ほのぼのとした良作である。
耶馬英彦

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