marmo

さらば、わが愛/覇王別姫 4Kのmarmoのネタバレレビュー・内容・結末

4.8

このレビューはネタバレを含みます

はじめ5000字くらい書いてたレビュー消えちゃって泣いてる。*2回目鑑賞後追記してます

すごすぎた、映画体験トップレベルの衝撃。栄枯盛衰、京劇の描写も歴史描写も丁寧で鮮烈だった。抗日戦争も文化大革命も名前こそ覚えたけど、国内の混乱を映像で知るのは何気初めてだったかも。

目まぐるしく変わる世界の中で理想のフィクションのため生きる人たちが好きで、どうしようもなく切なくなる。

後半、振り向きざまの蝶衣の美しさに思わず息を呑んだ。望まずして劇団に入って京劇にしか生きられなくて…苦しいはずなのに幼少期から才能も京劇で涙を流す感性も持っているんだ。「運命を受け入れる」しかなかったと言っているけど、罰を受ける時も裁判でも嘘をつかなかったのも、あの最期を遂げたのも、京劇のプライドを捨てなかった彼自身の選択だったと思う。
役者は役者でも同じ演目をひたすらやり続けるってどういう感覚なんだろう。きっと化粧をして虞美人になっていた時間の方が長かっただろうし、自我がぐちゃぐちゃになるのもわからなくない。彼があんまり笑わないのも切なかったなあ。

*蝶衣に比べて、小樓は世俗的な大人に映ったけど彼はよっぽど人間らしい人間だなって思った。役者だってプライベートを持ってもいいし、言ってしまえば仕事だから役から離れる選択をしてもいい。後半になればなるほど蝶衣の浮世離れっぷりが際立ったなって印象だった。尋問を受けるシーンは辛かったけども、舞台上での美しさを永遠に保ったままの蝶衣とは対比的に”盛者必衰”を表したような人だと思う。

菊仙がかなり強い女なのが印象的だったな。いちばん地に足がついてて、素のふたりも舞台のふたりも両方愛していたと思う。いい女や、蝶衣の姉さん………拘束中のあの表情が忘れられない。
*蝶衣の対菊仙感情が切なくて切なくて…娼婦の母を重ねる気持ち、恋敵としての嫉妬、両方理解した上で彼を温めてあげるシーンが本当に好き。尋問で彼に娼婦だって揶揄されてしまって、それは菊仙の人生の否定でもあるし蝶衣の人生の根っこの否定でもある気がして苦しかった。

理不尽な世界を経験した小四が共産主義に共感するのも無理ないと思うけど、文化大革命に傾倒するいち若者に包摂されてしまったのが惜しまれる。

*演劇史の流れとして、伝統を否定して新しいものを作ろうとするのはごく自然な流れだと思うけど、その新しいものも結局社会主義のイデオロギーの一部にすぎないのがなんともだよね。あまり理論的なトレーニングが確立されてなくて、とにかく上に倣え従えって閉鎖的な体制になってしまうのは伝統や芸能の世界あるあるなのかなあ。それに嫌気がさす気持ちも痛いほどわかって、苦しい。
その閉塞性がいわゆる枕営業を可能にする風通しの悪さを作ってるのかね…日本芸能界のニュースと少し重なってしまった。
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