小麦番長

ミッシングの小麦番長のネタバレレビュー・内容・結末

ミッシング(2024年製作の映画)
3.7

このレビューはネタバレを含みます

ヒトが持つ闇と希望を好バランスで上手に描く吉田恵輔監督作品。

テレビなんて言う、一番頼ってはいけない害悪メディアにすがるしか娘を見つける術を見つけられない、情報収集スキル的にも言わば最弱な立場な被害者家族・沙織里を石原さとみが演じている。
リアルでは山梨で娘さんが失踪したお母さんもXで発信してたし、テレビではなく自身でYouTube発信するとか他にも方法はあったのでは?‥‥と思ったりもするが。
そこは中村倫也が演じた「害悪TV局側の人間」との対比が必要だったから避けたのかな。(YouTubeネタは神は見返り‥‥で十分やったしね^^; )

面白いなと思ったのは、作品自体は2時間あるし「2年後」って時間の経過まで記してたりしているのに、登場人物の状況も心情もほぼ変わっていないところ。
ドジだった新人後輩(小野花梨)が成長してたり世間は失踪した娘のことをもうだいぶ忘れてる、等の時間の経過の描写はあっても。

中村倫也が演じる砂田の役どころも、「伝えるべきは視聴者の見たがるネタではなく真実であるべき」のスタンスは最初からで、最後までそれは変わらない。
「バリバリの数字至上主義だったのに沙織里のあまりに厳しい姿に触れたのを機に“報道は真実を伝えなければ” と心を入れ替えた」‥‥だとかの設定で起伏あるドラマで魅せたりもしない。
彼は後輩が視聴者が見たがるネタでキー局に出世しても否定も嫉妬もしないし、2年後も上司のムチャ振りはかわしつつアザラシを撮ってたり。

最後の最後に偶然がきっかけで弟の本心に触れたのもあって沙織里がやっと前に進めそうになったのを描いてはいけるけど、ストーリーの起伏は控えめ。
夫との亀裂も「こんな状況に陥ったらこのくらいの諍いは普通に起きるだろう」と想像し得るもので、夫は終始沙織里に対し思いやりがある。
ここで夫婦が壊滅状態になったり「これでもか!!」な悲惨な状況に追い込まない設定も良かった。

ミスリードぽいのも多少はあったものの、この作品が見せたいのは真相探しではなく「被害者家族のリアルと世間のリアル」。
なのだとすれば、実際も能動的な行動はチラシを配ったりなだけで、あとはひたすらSNSや嫌がらせへの対応ばかりなのかもしれない。


沙織里が刑事に「お気持ちはわかりますって、どうわかってるんですか?!」とツッ込んでいたけど。
沙織里のように表立って「辛い苦しい」と言ったりはしなかった夫は、かつて娘が失踪した母親から協力を申し出られたとき、やっと理解者に出会えたことに号泣してしまう。
石原さとみの終始騒がしいのよりグッときて辛い。
それまでも優しい人たちは都度出てくるのだけど、やはり同じ目に遭った人としか通じないものがある。

しかし現代人の「ヒトの不幸大好きっぷり」と言ったら。闇が深い。
TVも結婚報道より離婚報道のが盛り上がるしね。

ここで勝手に「現代人 精神タフさ強者弱者ランキング」を作成。(注 : 憶測多め)
アナタはどのタイプ?!

①キー局へ栄転した後輩
他者の痛みを全く想像しない(想像できない、もしくは想像する必要は無いと思ってる)ので突っ走れる→成績を上げられ出世できる。
単に自分の快楽のために他者を攻撃できるサイコパスタイプ。

②カメラマン
他者の感情にフラットになれる。
目の前にいる沙織里の苦しみも、ドラマや映画の中の登場人物と同じに見れる。
やるべき仕事はちゃんと全うするので仕事は優秀。

①②は学生のころイジメをしてたのを忘れてるタイプ。
憶えてても罪悪感は皆無で、むしろネタにできる。

③砂田
他者を攻撃しなくても自分の価値観や感情をキープできるし、辛い人の感情は受け止められる。
「アザラシ映像、癒されますよ」と後輩にマウントとられても平常心を保てる。(→強い)

④SNSにネガティブに書き込む人たち
学校や職場などリアルな現場ではイジメなど直接攻撃は勇気もなく技量的にもムリだが、リスクのない匿名なら気が大きくなってしまう。
弱者(ターゲット)を見つけて誹謗中傷したり見下したり叩かないことには自分の幸せに確信が持てない。もしくは他者を攻撃しないと感情の均衡が保てず、比較でしか幸せを感じられない。

実際に書き込む・書き込まないの差はあってもたぶん大多数の人はコレ
アナタの周りで「いい人だよね」とか言われるアノ人も書き込んでますョ。

⑤沙織里
他者を攻撃しなくても幸せを感じられるが、攻撃という防御をしないためSNSでターゲットにされると受けるダメージが大きい。
小麦番長

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