小麦番長

悪は存在しないの小麦番長のネタバレレビュー・内容・結末

悪は存在しない(2023年製作の映画)
3.8

このレビューはネタバレを含みます

【着地点どーーーーん!!】


さてどう着地するのか?とワクワクしながら観てたからラストは笑ゥせえるすまんの「どーーーーーん!」が頭をよぎったんですよ笑

とりあえず順番に。
もう冒頭の木々のしつこい映像から楽しい。
ムービーウォッチメンで宇多丸さんも言ってたけどゲシュタルト崩壊してワタシは静脈か動脈に見えてきて。
木々がひたすら下から上へ流れてく。(カメラは上から下へ)
嫌味なく感じて楽しめる。
‥‥からの、割って入ってくる巧のチェンソーのノイズ。

説明会を不穏なものだと予見させつつ開くとシニカルな笑いあり、緊張シーケンスからの高橋とマユズミさん車中の会話の緩さとか。
飽きさせず、心拍数が上がる意味での楽しい、がスンナリ入ってくる。

自然の描写と石橋英子さんの不穏な楽曲。
学童の先生の満面の笑顔とひたすらにはしゃぐ子供たちに対し、悪い癖とは言えくりかえし時間どおりには迎えに来ない巧の不可解さ、違和感。
棘のある木、鹿猟、子供が一人で散策すると危険てわかる‥‥よね?
学童から離れる車は後ろを映す。

赤と青とかの対比を描きながら、悪も善に関しても明確には描かない。

始めは敵キャラ(=悪)だと認識してた芸能事務所の二人を後からわかりやすく人間味溢れる会話で共感キャラにしてたりが上手と言うか面白い。
善と悪なら善側だよね、と思っていた巧はどこか捉えどころがない非共感キャラに。
皆、巧よりあの高橋とマユズミさんに共感しまくりだったはず。
立場や板挟みな状況も「わかるわかる」的な。
高橋の「(元付き人してた)田村さん(←誰よ笑)があんな事になって‥‥」
とか、
マユズミさんの「芸能関係なんてクソな人間ばっかり」と愚痴りつつそれでも現状は病むことはなく辞めたいとも思わない。そんな芸能界隈よりも悲惨だったのだと想像させる、コロナ期の介護界の悲惨さとか。
短い会話で想像させる。

高橋が付け焼き刃な “なんちゃって自然派” にくら替えった(つもり)描写もすごい笑える。(笑えるけど、自分もああなってしまうかも。)
蕎麦屋主人の褒めてるの味じゃないですよね、のツッコミも笑えるし、水汲みの大変さを実感しながらタバコは草むらにギュッと捨てるとかね。
実はコレは巧も同じで。
彼は別に声高に「地元の自然を守る!」と叫んでる訳ではない。
身近な生活を守りたいだけで。(たぶん)
ガンガン煙草も吸う。

例えば私は都会の人間なので「都会のストレスを吐き出す場所」として「自然あふれる土地に作られた人工施設」はまま利用してる側。
補助金目的は解せぬけど、あの芸能事務所を非難はできない。

巧だとて娘を「手負いで凶暴にもなり得る母鹿」から守るためには高橋をチョークスリーパーにだってかける。
首を締めながら巧の「お前がっ!お前がっ!場所がなくなったら鹿はどこかへ行くんじゃないですかとか言うからッッ!!お前なんか何もわかってないッ!!」
ってセリフが聞こえてきそうで。(←マンガ見過ぎ)
子鹿と自身を守るため花を攻撃しようとする母鹿と、娘を守るため高橋を攻撃する巧はどちらもバランサー。


ラストに関しては‥‥
監督が「自由に想像してください」とお楽しみを残してくれたのではないかと。
個人的には、地元の人たちが暗がりの中「おーーいおーーい」と探す場面が山岸涼子のマンガ「神隠し」を思い出し。
鹿も、もののけ姫のシシガミ様を勝手に被らせて、巧は花が鹿に近づこうとしてるのを見て「連れていかれる!(森に取り込まれる!)」
と、見られてはいけない物を見せないよう、高橋の首を締めた。
花は学童では浮いてたんじゃないかな。
あの、(巧から見たら)異質なだるまさんが転んだ、の中には入れない花。
ちょっとピュアと言うか‥‥
そういう子は神様に連れていかれやすいのかな、と。独自解釈。
説明なかった母親の死も、そのへんの花の特性?が関係してるのかな、とか。
ペンションで花捜索の様子を見守る「先生」こと区長が「何かを知ってる風」に見えたり。

あとは普通に先に述べたように手負いの母鹿が高橋の急な動きで花を襲うのを防ぐため、&そこに「お前らが来たせいで!」の感情が加わっての行動かなとも思う。

‥‥が。
その後ゼエハア言いながら必死に花を森に連れて(鹿の場所から遠ざけて)るのを見ると。
鹿(神様)に取り込まれ説、が自分的には有力なのでした。

‥‥

鑑賞後呆気に取られたのは確かなのだけど、それも含め2時間弱が楽しい映画体験だった事は間違いなく。
石橋英子さんの劇伴のためにも、(と言うか音のために映像を作ろうとしたのが発端らしいけど)劇場で観るべき作品。
未鑑賞の「ハッピーアワー」と「偶然と想像」観るのが楽しみ。


以上、マンガ見過ぎユーザーのレビューでした。
小麦番長

小麦番長