Ryoma

ミッシングのRyomaのレビュー・感想・評価

ミッシング(2024年製作の映画)
4.4
愛する娘の喪失にかかる悲壮感は他者では想像し得ないほどに計り知れないだろう。本作は、娘の失踪を受けた両親の心情が描かれているけれども、その他にも、現代社会に潜むネット社会の闇や報道の信憑性など、様々な闇や暗部も浮き彫りにされていて、まさに現代社会を投影している作品に感じた。人間は自分が第一というのが大前提だという、シチュエーションによっては、善とも欠点ともなり得るそれが、本作においては、後者で色濃く描かれていて、本音と建前で成り立っている日本社会であったり、出てきた杭を集中攻撃しがちな日本メディアの負の側面が赤裸々に映し出されていた。失踪事件につけ込むネットの誹謗中傷や、メディアが持つ影響力の強さによる生き辛さが実社会でも通ずるであろう劇中のあらゆる映像から痛いほどに伝わってきて、本当に苦しかった。普段は仲睦まじい関係性であるように見えても、ネットの誹謗中傷や第三者による心ない言葉、そしてメディアによる無責任な報道により、壊れてしまうのは本当に恐ろしく悲しいなと感じた。
真実を伝えるのがメディアの使命だと言う人もいるのかもしれないけれど、ある報道によって被害を被る人や人生を粉々に壊されてしまう人もいるのも事実なのだと強く感じる。何を伝え、何を多くの人に知ってほしいのか取捨選択するのもメディアの使命なのかもしれないなと感じた。テーマやストーリー的には、悲しく苦しく感じる場面は多かったけれども、後半からラストにかけてのシーンに心が救われる場面が多くて、雲間に差し込む光のように仄かな希望が見えるラストショットは最高だった。こんな不条理で理不尽な残酷な世界でも、心の底から本当の意味での優しさを持ち寄り分かち合える人の存在はきっといるんだと信じたくなるあるシーンがとても好き。時折り映し出される写真集を切り取ったかのような美しい自然の風景にも幾度となく救われた。
実生活でも子を授かり育児をされておられるという石原さとみさんの母親ならではの、説得力というか、自らの命よりも大切にも思える母親の子を想う気持ちの強さが本当に痛いほど伝わってくるお芝居が素敵だった。青木崇高さんの不器用ながらも優しく妻を見守り子を救おうと陰で奮闘する姿もとても良かった。
本作を通して、テレビやネットなどのメディア媒体への向き合い方を考え直そうと改めて感じた。すべて鵜呑みにするのではなく、何が真実でそうではないのかを考え判断すること、それに、安易な言動が人を傷つけてしまう“言葉“が持つ重要性を強く突きつけられた。それでも、そんな人を傷つけ得る“言葉“であるのと同時に、人を救い得たり、後押し寄り添ったりできたりもするそんな“言葉“が果たす役割は大きいなと感じた。ネットにおいて、心ない投稿や誹謗中傷が喫緊の課題である現代社会ではあるけれども、“言葉“が後者で多く使われる社会になることを切に願っている。
私自身も誰かに寄り添えるような、見知らぬ誰かの心に少しでも届くような“言葉“を送れるようになりたいな。
作品に寄り添った世武裕子さんのピアノ&コーラスが流れるエンディングもしっとりと余韻が味わえてよかった。
Ryoma

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