ぶみ

ぼくたちの哲学教室のぶみのレビュー・感想・評価

ぼくたちの哲学教室(2021年製作の映画)
4.0
やられたら、やりかえす?
それでいいの?

ナーサ・ニ・キアナン、デクラン・マッグラ監督によるアイルランド、イギリス、ベルギー、フランス製作によるドキュメンタリー。
哲学を主要科目とする北アイルランドにある小学校の日常を追う。
北アイルランドのベルファストにあるホーリークロス小学校を舞台とし、ケヴィン・マカリーヴィー校長の授業風景を中心としたスタイルで展開していくが、ベルファストを舞台とした作品として真っ先に思い出すのが、ケネス・ブラナー監督による『ベルファスト』。
同作品では、1969年、北アイルランド紛争により街が分断される様が描かれていたが、何を隠そう、カトリック地域とプロテスタント地域を分断するベルリンの壁ならぬ、「平和の壁」がベルファストを中心に立ち並んでおり、今でも武装組織が存在することを、恥ずかしながら本作品で知った次第。
学校も鉄条網が張られた高い壁に囲まれるという物々しさに溢れており、本作品の主人公とも言えるスキンヘッドのケヴィン校長も、一見ジョン・マルコヴィッチかのような強面な風体なのだが、実はエルヴィス・プレスリーが大好きと、人間味溢れるお茶目な一面も見せてくれている。
そんな校長が力を入れる授業が、哲学。
哲学というと難しそうなイメージが漂うし、私自身も高校時代に履修した倫理の授業で触れたものの、正直何のこっちゃ。
しかし、ここで行われている哲学の授業は、「暴力は暴力を生み、けっして止まない」という信念のもと、対話や議論を通じて、ゆっくりと一つ一つ時間をかけながら生徒たち自身に答えを導き出させようという内容で、決して難しく考えることはないもの。
学校では、当然の如く、時にいじめ、時に喧嘩と様々な出来事が巻き起こるのだが、真剣に向き合う教師と、それに対して、これまた真剣に答えを出そうとする子どもたちの姿は、まさに魂の授業と言えるものであり、学歴偏重が残り、政治が価値観を押し付ける日本との雲泥の差に愕然とさせられることに。
とりわけ、少し考えればわかるのに、と思うような事件が当たり前のように報道され、その一つ一つに、匿名で罵詈雑言を浴びせたうえで、飽きたら消耗品かのように忘れ去られることが多い現代において、思考する、考える、という行為はもっとも必要なことではなかろうか。
前述のように、何が何やらだった高校時代の倫理の授業の中で、唯一今でも記憶に残っているのが、ソクラテスの言葉である「無知の知」で、無知であることを知るなんて考えたこともなかった自分にとっては、なかなか衝撃的だった記憶あり。
そう考えると、今の自分の根底には、その言葉が横たわっているのかもしれないと、改めて考えさせられ、年齢関係なく、思考する、考える、ということができる人間になるために、多くの人に観てもらいたいと思うとともに、校長の愛車がトヨタ・アベンシスだったのが印象的な良作。

哲学とは「問う」姿勢だ。
ぶみ

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